訓練でみえた大震災時「帰宅困難」の現実

執筆者:西村竜郎2008年11月号

金融危機も恐ろしいが、自然災害の脅威も忘れてはならない。「大地震に備えよう」といつも心の中で思っているだけでは……。 職場で仕事をしているとき、突然、大地震が起き、通勤に使う電車やバスなど公共交通機関が寸断されてしまったら――。「家族の安否を確かめたい。一刻も早く家に帰りたい」。そんな思いで大勢の人々が一斉に徒歩で家路につく光景が目に浮かぶ。しかし、ふだん職場から家までの道のりをすべて歩いて帰ったことのある人がどれだけいるだろうか。平時に歩ききるだけでも容易ではないケースが多いのに、実際に大地震が起きれば余震や火災などが立ちはだかる。このほど行なわれた徒歩帰宅訓練では、そんな「帰宅困難者」をとりまくさまざまな課題が浮かび上がった。想像以上に体力を消耗●八月三十一日、午前九時。銀座四丁目交差点に程近い王子ホールの前に、ハイキングに行くような一見場違いの服装の人々が集まった。若者から高齢者まで年齢層は幅広いが、みな同じ赤いバンダナを腕やカバンに巻いている。彼らは、この日東京都と近隣の計八都県市が共催した総合防災訓練の一環として、埼玉県、さいたま市などが実施した「徒歩帰宅訓練」の参加者たちだ。バンダナは埼玉県が支給した目印だった。

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