『ザ・フェデラリスト』A・ハミルトン、J・ジェイ、J・マディソン著/斎藤眞・武則忠見訳福村出版 1998年刊(原書は1788年刊。全85篇のうち31篇を抜粋した斎藤眞・中野勝郎訳の岩波文庫版もある。なお本稿中の一部の引用は評者要約) 欧州連合(EU)の憲法案であるリスボン条約がアイルランド国民投票で六月に否決されてひと月ほどして、ダブリンを訪れる機会があった。乗り合わせたタクシーの中年運転手に尋ねると、否決は当然とでもいわんばかりだ。「考えてみろよ。この国は独立してまだ七十年だよ。それなのにもう、俺たちアイルランド人自身が決めるべきことを今度は(EUの本部がある)ブリュッセルの官僚どもが奪ってしまおうというんだから……」 大英帝国の圧政からやっと逃れたと思ったら、今度はEUという「帝国」がやってきた。これが運転手の不満だった。特に、妊娠中絶合法化などEUの放恣な政策を押し付けられそうなのが許せないという。「そんな大事なことを勝手に決められてたまるか」という様子がありありだった。 アイルランド国民は条約の内容や意味を理解せずに反対票を投じた――。そう報じられていたが、とんでもない。本質的なことはしっかりと理解しているではないか。そう感じた。と同時に、EU官僚たちも今、必死で「あの本」を読んでいるだろうな、と想像した。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。