金融当局の「縄張り争い」がもう始まった

執筆者:水本春子2008年12月号

[シカゴ発]「TSUNAMI(津波)が襲った」。大恐慌以来の金融危機の全容が明らかになるにつれ米議会を震え上がらせたのは、デリバティブと呼ばれる金融派生商品、とりわけ米保険最大手AIGを実質的な経営破綻に追い込んだCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)への規制の実態だった。 CDSは保険のようなもの。企業の倒産で貸し付けたお金を回収できなくなるかもしれないリスクへの保証を商品化したものと考えればいい。債権者(お金を貸した者)が貸付先の企業に関わるCDSを購入し、毎年債権の一%程度の保証料をCDSの売り手に払っておけば、その企業が倒産しても売り手から貸し付けたお金の元本を補填してもらえる。 CDSは当初は倒産リスクに備えられることが売り物の商品だったが、倒産の可能性が高いほど保証料率も高くなるため、次第に、破綻懸念のある企業をみつけ出し高い保証料の獲得を狙う「ハイリスク・ハイリターン」商品としての取引が増えていった。市場規模は五十五兆ドル(約五千五百兆円)といわれる。 米政府が救済に乗り出したAIGは大量にCDSを販売していた。サブプライムに絡む損失で弱ったAIGが破綻してCDSの元本補填が不能になれば、ドミノ倒しの金融システム破綻が起こる。にもかかわらずCDSに対する規制はゼロで「誰も実態を知らなかった」(取引所関係者)ことが議会を驚愕させた。

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