島本理生『夜 は お し ま い』

評者:中江有里(女優・作家)

2019年12月22日

闇の中で宿命を生きる女たち「ままならなさ」が貫く4編

しまもと・りお 1983年、東京生まれ。2018年『ファーストラヴ』で直木賞を受賞。『あなたの呼吸が止まるまで』『アンダスタンド・メイビー』など著書多数。

 4人の女が登場する。自分自身を語る彼女らはどこか破綻して見える。しかしその破綻は女ゆえに宿命的に降りかかるもの――先の見えない闇の中で宿命を生きる女たちの「ままならなさ」に貫かれた4編の物語。
 「夜のまっただなか」の主人公・琴子は、周りに担がれるようにミスキャンパスに出場するが、結果は最下位。負けた琴子に声をかけてきた自称タレント事務所のマネージャー・北川に誘われるまま飲みに行く。やがて関係を結んでしまうが……容姿を競わせ、負けた者には羞恥心や劣等感を植え付ける。そうして謀られた女は衝動的な行動をとった。琴子の中に生まれたのは自分を損なった罪悪感だった。
 罪悪感は物語にちりばめられた鋭い針のようだ。針は時間をかけて体を巡り、知らぬ間に女たちに痛みを加える。
 「サテライトの女たち」の結衣は複数の男の愛人と称している。ある日、パトロンの1人から思わぬ性行為を求められて応じた。屈辱的な思いの果てに手にした金をホストにつぎ込む。その行動の裏には、母娘、そして母と「神」の関係があった。結衣は軽薄ぶることで自らをぞんざいに扱っている。
 最も罪悪感にあふれているのは「雪ト逃ゲル」かもしれない。夫と幼い息子・伊月がいる主人公の小説家は、年上のKと交際している。そして他の男とも――夫とはしないのに。
 「すり切れた罪悪感に命を吹き込むのは伊月だけで、だから私はもし願いが叶うならば神様に奪ってほしい。母という名前を。そして父親という名に書き直してほしい」
 女は結婚すれば妻になり、子を儲ければ母になる。男も同様だというかもしれないが、女は精神的に自立していても「受動的な身体からは逃れられない」。
 「静寂」のカウンセラーの更紗は愛する人とは結ばれないことを金井神父に打ち明ける。理由は身体が「女」だから……男女ともに受け入れられない自分を排他的だという更紗の罪悪感は底が深い。
 人は人に求められ、選ばれたい生き物だ。時に自分を見失い、外部からつけられた価値に一時の安堵を覚える。いつのまにか傷つけられた女たちは、その傷を見なかったことにしてしまいがちだ。でも傷を認めなければ癒えることはない。
 神を「男」と仮定した世界で、虐げられた「女」たちの生き抜いた夜は終わる。
 やがてほのかな光が差し込む。

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