大きな損失への対処が明暗を分ける
「投機家」と「投資家」の違い

Michael Batnick ニューヨークを拠点とする投資アドバイザー会社「リソルツ・ウェルス・マネジメント」の調査部門ディレクター。CFA協会認定証券アナリスト。

 株や債券に為替や米と、昔から相場に人生を賭けた相場師の列伝は洋の東西を問わず数多くある。
 ところがバブル以降の日本では、例外はあるが基本あまり見かけない。
 いわゆる投資家の機関化現象の進展で、大手金融機関によるサラリーマン相場師だらけになってしまったからかもしれない。
 一方で東京株式市場では米国のように企業の新陳代謝が進まず、株価指標の中身の主要な企業群は、昔とそれほど変わらないメンバーが目立つ。売りも買いもリスク回避型のサラリーマンの市場なのか。
 そして今や、いよいよ中央銀行が大株主になろうというのが我が国の株式市場だ。未だに大物相場師を輩出する米国市場がねたましい。
 本書は著者本人も含めた16組の投機家と投資家のエピソードを集めて、その失敗例を分析対象として取り上げたものだ。
 バリュー投資の教祖ベンジャミン・グレアムから、相場師ジェシー・リバモア、ジョン・メリウェザーにインデックス投資のジャック・ボーグル、ウォーレン・バフェットはもちろん、セコイアのルアン&カニフまで入っている訳本は日本人投資家にはありがたい。
 金融界には「投資家は失敗した投機家だ」という格言がある。
 すぐに上がると思って買った株がずるずると下がってしまい、実現損を出したくないから売れなくなって、しかた無しに長期投資となってしまった投機家を皮肉ったネガティヴなものだ。
 しかしこの本で取り上げられた大物相場師達の失敗例を見ていくと、バフェットやチャーリー・マンガーなどまるで神のように偉大な投資家でさえ、過去には間違いを犯していることがよくわかる。
 この本を読んでいると投機家と投資家の違いは、そうした間違いを犯して大きな損失を受けた時に、どう対処出来たかにありそうだ。その対処に失敗した者が投機家として歴史に刻まれ、生き延びた者が投資家として成功事例に加えられるのだ。
 損失を受けても立ち直れるように基本的に分散投資は重要だし、その時に慌てて売り買いしないようにファンダメンタルズ分析や企業調査も重要だ。
 というわけで、この本の読後感想は、結局は株式投資に近道無し、企業を見極めるバリュー投資にリスク回避の分散投資と、株式投資の基礎技術の話に立ち返るのである。
 投機家は失敗した投資家なのだ。

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