状況は一変した。時間を稼ぎ、相手をじらす――そんな北朝鮮の交渉戦術は使用不能に。そこを見据えるべきだ。 金正日総書記の「写真統治」が続いている。 北朝鮮の公式メディアは、十月四日から十二月十二日までの間に、十一回にわたって金総書記の現地指導を報じた。いずれもスチール写真で、左手の麻痺の可能性を指摘されると両手を上げて拍手をしている写真を公表するなど「釈明」に努めている。しかし、九月九日の建国六十年の行事や、十月三十日の朴成哲元国家副主席の国葬に参加しなかった理由は、健康異常以外に考えにくく、八月中旬に脳卒中などの病変が生じたことは間違いない。 ただし、健康状態は回復基調にあるようにみえる。病身とはいえ、政権掌握に問題が起こっている兆しはなく、権力の空白は感じられないからだ。 注目すべきは、金総書記の健康異常と相関するように、北が核問題、南北関係、経済政策などで一斉に強硬路線を取り始めたことだ。 まず、核問題。北朝鮮は十月十一日に米ブッシュ政権からテロ支援国家指定解除を取り付けて以降、現政権からこれ以上得るものはないと判断したかのように、核開発の進み具合を検証するための核施設からのサンプル(試料)採取を認めない強硬姿勢に転じた。米国側はサンプル採取について「再三確認しており、米朝間で認識の食い違いはない」としたが、米朝合意文書の中には明確な表記はなく、文書化を怠ったスキを突かれたといえる。

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