理系大学の技術情報がますます狙われている

執筆者:西村竜郎2009年1月号

外国が欲しがっていることがわかっていても、遅々として進まない大学や研究機関の情報流出防止策。国の安全にも関わるのだが――。「北京航空航天大学」――。二〇〇八年初め、中国から日本政府に届いた先端技術関連の国際共同研究の提案文書を見たある安全保障問題の専門家の目は、文書の中に何度も出てくる大学の名に釘付けになった。文書には約百件もの共同研究候補のリストがつけられており、それぞれの研究項目には担当の大学・研究機関の名称も記載されていた。中でも中国が軍民一体で進めるロケット・ミサイル開発の一大拠点である北京航空航天大学は、実に七回も登場する突出ぶりだった。 リストの存在を偶然知ったこの専門家は、中国があまりにも堂々と日本の技術を「共同研究」という名目で吸収し軍事利用しようとしているのに愕然とした。ただ、その専門家がもっと呆れたのは、関係者によるチェックが働かなければ、提案文書にあった日中共同研究がそのまま実現していたという危うい現実だった。 企業が自社の製品や技術を中国や北朝鮮、イランといった「懸念国」に渡して大量破壊兵器などの開発・生産に利用される事態を未然に防ぐ「安全保障貿易管理」という分野がある。兵器やその材料、関連技術などが懸念国に流出すれば、国際的な軍事バランスを危険な方向に崩しかねない。このため、国際社会は、核や化学兵器、ミサイルなどさまざまな分野で流出防止策を取り決めている。

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