『道徳感情論 The Theory of Moral Sentiments』アダム・スミス著Liberty Fund 1982年刊(原書は1759年刊。邦訳には米林富男訳と水田洋訳がある) 二〇〇八年は、サブプライム問題を発端とした金融危機が世界経済に大きな打撃を与え、市場経済に対する私たちの信頼を揺るがせた歴史に残る年であったといえよう。今なお不安定な動きを続ける金融市場を国際協調体制によってどのように管理すべきか、そして深刻さを増す世界的な不況に対して各国はどのような対策をとるべきかは、二〇〇九年に残された重要課題である。 ところで二〇〇九年は、ダーウィン『種の起源』(一八五九)、およびジョン・ステュアート・ミル『自由論』(同)の出版百五十周年である。『種の起源』は生物の進化とその要因を解き明かした書物として、また『自由論』は人間社会の進歩にとって個人の多様性が重要であることを主張した書物として、人類の記憶にとどめるべき貴重な知的遺産である。 二〇〇九年はまた、アダム・スミス『道徳感情論』(一七五九)の出版二百五十周年でもある。『道徳感情論』は、社会の秩序と繁栄を導く人間の本性は何かを人間の感情面に光をあてて明らかにした書物である。『種の起源』や『自由論』と比べるならば、『道徳感情論』の知名度は低いといえよう。また、スミスといえば『国富論』(一七七六)の方がはるかに有名であろう。

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