ネームの謎

執筆者:阿川佐和子2020年5月3日
「エスニック方面の食料品を見ると、なぜこれほどまでに心が浮き立つのであろう」

 

 よく行く千葉のゴルフ場近くに不思議な店がある。

 畑や雑木林の続く田舎道沿いにその店は忽然と現れた。白いペンキ塗りの平屋で、店頭に掲げられた横長の看板に店名らしき文字が大きく書かれているのだが、これがまったく読めない。アルファベットでもハングルでもない。アラビア文字でもなさそうだ。その解読不能な文字の後ろに、カタカナが添えられているように見える。しかしそれがまた不可思議な手描きのヘタ文字なのである。

 「ンチャルーン? チャルーソ?」

 その店の前を車で通るたび、横目で必死に読み取ろうとするのだが、なにしろ一瞬で通り過ぎてしまうため、何度読んでもわからない。しかし、なぜか気になる。どうもおいしそうな気配がする。そしてある日、とうとう意を決し、ゴルフの帰りにオットと立ち寄ることにした。

 店の前のスペースに車を停めてガラス張りの店内へ足を踏み入れると、たちまちスパイシーな香りが鼻をくすぐった。東南アジア方面の空港に降り立ったときツンと鼻先を刺激する、甘酸っぱいような辛いような独特の香りと似ている。

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