灼熱――評伝「藤原あき」の生涯(106)

執筆者:佐野美和2020年6月21日
撮影年不詳ながら、義江との離婚、独り立ちを決意した頃のあき(自伝『ひとり生きる』=ダヴィッド社、1956年=より)

 伊藤博文の1000円札紙幣が発行され、吉展ちゃん誘拐殺人事件が日本中を震撼させ、海の向こうではアメリカとソ連のすわ核戦争かの一触即発「キューバ危機」が起こり、のちにJ・F・ケネディ大統領が暗殺された。

 日本の国会では、沖縄返還問題、日中・日韓関係、中小企業法の策定、そして国民所得倍増計画からのひずみとして過密都市問題、地域格差是正についての議論がなされている。

「こんにちは、赤ちゃん~、っていい歌ね。明日の質問にぴったりだわ」

 所属する文教委員会での初めての質問に、緊張する気持ちを自らほぐすようにあきは流行りの歌を口ずさむ。

 質問内容は「女子教育職員の出産に際しての補助教育職員の確保」の一部改定案に関するものだ。

 数日前から文部省の役人たちがあきへ「聞き取り」に木造の議員会館にやって来て、あれこれと質問内容を確認していくが、彼らはそれこそこの法を立案したプロであるわけで、昨日今日の自分がこの法律に立ち向かえるかと正直あとずさりしたい気分になる。

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