食糧危機に備えて地球の真裏で大豆を育てる

執筆者:中田智洋2009年2月号

 見渡す限り地平線しか見えない大平原に、煙がたなびく。近づけば、日本ではめっきり見なくなったホタルの大群だ。その姿は南米の肥沃な大地パンパの地力を証明している。 南半球だから、四季は日本と正反対。去る十二月中旬から二週間、初夏のアルゼンチンとパラグアイを訪ねてきた。この十年間で四十回以上も繰り返した年中行事だ。私が代表取締役を務める岐阜県の企業ギアリンクスは、アルゼンチンに千二百五十ヘクタールの農地を所有し、隣国パラグアイでは六万ヘクタールの農地を耕す日系農業協同組合中央会から食糧供給を受ける協定を結んでいる。パラグアイでは五百世帯の日系移民の方々が、母国・日本のために大豆などを育ててくれている。 日本の大豆自給率は五%と非常に低い。アルゼンチンでのギアリンクスの生産量は一千トンだが、パラグアイの日系農協は年間十五万トン前後の大豆を生産している。これは日本国内の生産量の約六割に匹敵する量で、昨年はそのうち一千トンを日本に送り出した。世界的な需給逼迫により日本の食品会社が「カネを出しても玉がない」と悲鳴を上げる状況下で、たとえ量は限られても安定した供給源の価値は増している。 とはいえ、アルゼンチンは日本から見て地球のほぼ真裏。「最も遠い国」に頼っての食糧確保に取り組んだのはなぜか。きっかけは、十年前に受けた、梶原拓岐阜県知事(当時)からの協力要請だった。

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