独立以来の悩みをほぼ払拭したいま、その過程で培ったノウハウを、ビジネス資源に変換しつつある。小さくも商魂たくましき島国――。[シンガポール発]「水を完全に自給自足できる日が来る」――。二〇〇八年十月三十一日、シンガポール中心部に完成した「マリーナ堰」のオープニングセレモニーで、リー・シェンロン首相は自信たっぷりに言ってのけた。 マリーナ堰は、官庁や金融街などの前に広がる「マリーナ湾」を海から隔て、巨大な貯水池を形成しようという一大プロジェクトだ。同首相の父で初代首相でもあるリー・クアンユー顧問相が一九八七年に提案、〇五年から工事に取りかかっていた。この先二―三年をかけて淡水化するという。 堰からは八月にシンガポールの独立記念日を祝う軍事パレードが行なわれた「フローティング・プラットフォーム」が遠くに見える。世界最大の大観覧車「シンガポール・フライヤー」や、〇九年に開業予定のカジノの建設現場も湾を取り囲むようにある。建国以来、水との闘いを繰り広げ、経済全体では一人当たりの国内総生産(GDP)で日本と肩を並べるまでに成長したシンガポールにとって、堰の完成は象徴的な意味合いがある。首相の言葉には、「勝利宣言」に似た高揚感が漂っていた。

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