日本でもすっかり定着したミネラルウォーターだが、先進国の需要は頭打ち。世界の有力メーカーは「安全」を看板に途上国へ軸足を移す。「空気と水はタダ」という概念は、ひと昔前の日本人の常識というばかりでなく、おそらく近代以降の人間社会の基本概念であった。いずれが欠けても人の死に直結するわけで、人の生存権の確立とともに、“常識”になってきたと考えられる。 ところが二十一世紀になって、水ばかりか、ついに空気までもが有料になった。空気を燃やした残りカスである二酸化炭素を出す権利、「二酸化炭素排出権」に価格が付されたことで、空気も事実上タダではなくなったのである。 当初、二酸化炭素を減らす便法と思われた排出権取引が、純粋な売買の対象となり一種の金融商品と化した。ところが、そこまできて金融バブルは壊れた。デリバティブ(金融派生商品)に代表される金融商品は資本主義の行き過ぎの象徴として厳しい批判を浴びている。排出権取引もその象徴的な存在として槍玉に挙げられている。 こうした見直しの動きは、空気より長い「有料化」の歴史を持つ水にも及ぶのだろうか。巨大な高収益ビジネスに スイス西部、レマン湖に面した丘に広がるローザンヌ。ここで毎年春、世界最大の食品会社ネスレが株主総会を開く。インスタントコーヒーやチョコレートなどで有名だが、実は世界最大のミネラルウォーター(ボトルウォーター)製造会社でもある。

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