良質かつ柔軟性に富むベルギー「医療事情」

執筆者:大野ゆり子2009年2月号

 昨年ちょっとした病気で、ベルギーで入院して手術した。ヨーロッパに住んで十七年目。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランス、そして客演旅行先のアメリカ、イギリスの全ての国で、夫か私が診察を受けた経験があると胸を張れる(張らなくていいけど)。 その経験から言うと、共産主義を脱して間もない頃のクロアチアの医療水準の高さは群を抜いていた。夫が足を何針か縫う怪我をした時のこと。病院に駆けつけると手際の良い治療で、しかも無料。折悪しく夜は演奏会という日の午後だった。包帯をぐるぐる巻いて舞台に上がったので、黒いエナメルの靴は履けず、場内アナウンスの上、燕尾服に白いスリッパで指揮をしたのだが、見事な治療のお陰で、無事に公演ができた。 今じゃすっかり悪役の共産主義だけど、いいところもあった、というのがポーランドの友人の弁。出産して退院した後、授乳は順調ですか、困ったことはないですか、と一週間毎に、病院の方から、アフターケアの電話があったという。医師も看護師も、実に優秀で無料。民主化以降は、もちろん有料だ。 そういえば、ドイツの病院で一番優秀だったのは、やはり東欧圏から来た看護師だった。今回、ベルギーの病院では、アフリカ諸国から移民してきた、黒人の優秀な看護師が多かった。本国での研修はフランス語で受けているので、言葉の壁がなく、看護師不足の昨今、心強い即戦力となる。

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