食品行政の今年最初の大ニュースは「牛」だった。一月八日、岐阜県畜産研究所が安福号(飛騨牛の始祖とされる種牛)の冷凍保存細胞から誕生したクローン牛を公開したのだ。各国は、大量にクローンを作り出せ、遺伝子組み換え技術の応用もできる体細胞クローンの技術で鎬を削るが、クローン牛の分野で日本の技術はトップクラスだ。 公開から十一日後、「食の番人」と称される内閣府食品安全委員会の小委員会は、体細胞クローン技術で生産した牛と豚を原料とする食品の安全性を認める方針を示した。昨年、欧州連合(EU)と米国が相次いで「安全」を宣言、食品安全委は国民の議論を喚起しないまま、それに追随した。 いま、日本の食品行政は大転換点にさしかかっている。 昨年五月、小さいが重要な兆しがあった。遺伝子組み換え作物(GMO)などバイオテクノロジーの用語を解説し、その安全性を強調する「バイテク小事典」の発行元が、農林水産先端技術産業振興センターから農林水産省へと変わったのだ。科学者中心の外郭団体の見解が「政府公認」に昇格したのである。 背景は二つある。まず、安倍政権当時に打ち出された「科学技術創造立国」構想。日本の優秀なバイオ技術を経済成長に結びつけようという政策の変化だ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。