「核の番人」として活動する国際原子力機関(IAEA・本部ウィーン)の拠り所、サイバースドルフ保障措置分析研究所が危機的な状況にある。 ウィーン郊外の農村に一九七五年に建てられた研究所には、世界中の原子力発電所や核開発の疑惑のある施設から採取された環境サンプルが、年間一千件ほど持ち込まれる。壁や機器に付着したわずかなチリに含まれる何兆分の一グラムという微量の核物質も検出できる高性能分析機器が揃うが、三十年以上使っているものも多く、近年は故障が頻発、補修を繰り返して凌いでいる状態だ。このままだと二〇一五年頃に機能停止に陥る恐れがあるといい、北朝鮮やイランなどの核問題で、「疑惑の証拠を集めても分析できない事態」も予想されている。 IAEAは、日本や米国など関係国との分析ネットワークを強化する一方で、昨年、機器刷新や建て替えの計画を発表し、加盟国に資金協力を求めた。刷新費用は約四千万ユーロ(約四十六億円)だが、日本が四百五十万ユーロを醵出しただけ。原子力発電の再評価の動きが強まる中、各国とも自国の原子力設備にカネを投入したいのが本音で、「あと二、三年は様子見。研究所が機能しなくなる直前にならないと、みんな真剣に考えない」(ロシアのある外交官)。核拡散防止の重要性は叫びながら、カネの話になると消極的という「核の国際協調」の実態が浮き彫りになっている。

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