連載小説:裂けた明日 第12回

執筆者:佐々木譲2021年7月17日
写真提供:時事

街を警備する物々しい軍隊を目の当たりにしながら、三人はいわき駅へ向かう。無事東京へ発てるのか、それとも……。

[承前]

 賛意を示す声がいくつか上がった。バスはロータリーから発進した。急発進ではなかったが、ロータリーの外に出たところから急加速となっていった。

 ベストの男がどうなったか、最後まで見届けることはできなかった。ただ、銃声は聞こえてこない。爆発音もだ。誤解は解け、フランス軍の兵士たちも恐怖から解放されたのだろう。バスは市街地を抜けると国道六号線に入り、さらに速度を上げた。

 一時間少々走って、バスはいわきの市街地に入った。いわき市街地に入るのは久しぶりだった。勤めていた当時、常磐自動車道で通過したことがある。それ以来だから、ことによったら三十年ぶりくらいかもしれない。

 いわきの市街地は、富岡とちがって、かなり車の通行量も通行人も多い。子供の姿もある。日常の生活があると見えた。 

 内戦の初期、茨城県北部から福島県南部も戦闘地域となった。水戸の郊外に集結した反融和政府武装勢力に対して、平和維持軍が攻勢をかけ、これに押された武装勢力の後退に伴って、前線は水戸の郊外からいわき市の勿来(なこそ)、そして常磐自動車道のいわきジャンクションあたりへと移動した。そこから武装勢力は、盛岡政府軍と合流するため、いわき市街地を通過せずに市の南部から郡山方面に転進したのだった。いわき市街地の一部でも市街戦があったはずだが、JRいわき駅周辺は被災を免れたのだろう。

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