連載小説:裂けた明日 第16回

執筆者:佐々木譲2021年8月14日
写真提供:時事

真智の仲間が入域許可証を手配してくれるまで、どこで待機するべきか。追っ手の気配を感じながら、信也は頭を悩ませる。

[承前]

 線路の北側は、真っ暗だった。商店や人家の照明がない。目を凝らすと、そこは窓のない巨大な建物が連なっているエリアだった。空に残る薄明かりと、駅や街路の照明でそうとわかる。どの建物も壁面は黒っぽく汚れ、ところどころが崩落しているようだ。もっとも近くの壁面に、ローマ字のロゴタイプが見えた。大手のスーパーマーケット、流通業者のロゴタイプだ。そのロゴタイプにさえ、照明が当てられていない?

 真智が信也の横で、同じように窓の外に目を凝らしたまま言った。

「燃えたみたい」

 思い出した。内戦の初期、ここの大型ショッピングモールも略奪に遭い、放火されて燃えたのではなかったか? テレビのニュースの映像を信也は覚えていた。あの時期、多くのショッピングモールが襲われ、略奪に遭ったが、ここもそのとき被害を受けた施設のひとつなのだろう。あのとき燃えた建物の残骸が、片付けられることもなく、駅前に残っているのだ。

 越谷で、由奈の席からふたつ隣りの乗客が下りた。あいだの席の中年男性客が、その空いた席に移動してくれた。

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