連載小説:裂けた明日 第17回
2021年8月21日

写真提供:時事通信フォト
大宮駅で下車し、宿を探す信也たちに声をかけて来た客引きの男。民泊まで案内してもらう道すがら、東京周辺の街の様子を聞くが――。
[承前]
客引きは答えた。
「物を売っている店なら。だけど、食べ物はあんまり衛生的じゃないかもしれない。そういう意味かい?」
「治安とかも」
「スリとか、ひったくりは、ときどきあるよ。自警団の目が届かないところで」
信也も訊いた。
「東京周辺には、こういうマーケットは多くなったんですか?」
客引きは答えた。
「放火じゃなくても、空爆で瓦礫の山になった場所は多いからね」
「東京周辺で、そんなに戦闘が多かったとは思っていなかった」
「平和維持軍は圧倒的に強かったし、戦争自体はほんの数日で終わった。北では、戦闘のニュースが全部流れたわけじゃないんでしょ?」
「たぶん大きな戦闘のニュースだけだったろうと思う」
通りの左手、一方通行の車道の反対側に、ふたりの女性が立っていた。ふたりともスカート姿だ。化粧のせいで、年齢まではわからない。三十代か、あるいは四十代かもしれない。男たちに目を向けている。どんな職業の女性なのか想像がついた。
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