連載小説:裂けた明日 第22回

執筆者:佐々木譲2021年9月25日
写真提供:時事通信フォト

豚の運搬車で潜入を試みたものの、信也たち一行は検問で発見されてしまう。車を下ろされた三人は途方に暮れるが――。

[承前]

 真智はスマホを取り出し、電話をかけると、すぐに通話を始めた。

「失敗です。高井戸インターの手前で見つかって、下ろされました。トラックは無事。そのまま共同統治地域に入るみたいです。ええ。いえ。ええ」

 真智が信也に目を向け、顔をしかめた。先方も驚いて動揺しているのだろう。やはり次の手、プランBの用意はなかったようだ。

「わかりました。待ちます」

 真智はスマホをリュックに戻して言った。

「次の連絡待ちです。夜遅くになるかもしれないって」

「待つしかないな」

「そう答えました」

「とにかく降りよう」

 信也は、中央高速の路側帯を、階段があるという方向に向かって歩きだした。真智と由奈がすぐうしろに続いてくる。足が、自分でも驚くほどに重かった。狭い空間で膝を抱えていたせいだけではないだろう。希望が潰えたことで、自分はいま脱力感と徒労感で倒れそうだ。

 中央自動車道の階段を降りて地上に下り立ってから、信也はスマホで現在地を確かめた。高井戸インターの下り口西寄りだ。環八の封鎖線までは一キロメートルぐらい。京王井の頭線の富士見ヶ丘駅が、三百メートルほど北にある。

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