1789年にフランス革命が勃発した頃、イギリスでは産業革命が進行していた。それは、「ヨーロッパの世紀」のはじまりを意識させた時代の幕開けだった。

 フランス革命では、自由、平等、友愛という近代の理念が高らかにうたいあげられ、イギリスでは資本主義的な市場経済が定着していく。個人を基盤にした市民社会が生まれ、それまでの領主制に代わって国民国家が生まれていった。この国民国家では共和制がひかれ、代議制民主主義が確立していく。

 この時代のヨーロッパは近代社会のかたちをつくりだしていったのである。後にこの陣営にアメリカが加わり、欧米の時代が展開されていくことになる。

 今日の世界は、この延長線上にあるといってもよい。自由、民主主義、個人を基盤にした社会、さらには国民国家や国民という概念が生まれたのもヨーロッパ近代から、である。真理は科学によって明らかにされるという精神の習慣が定着し、近代の理念や合理主義的な精神が社会を支配した。

ヨーロッパがつくった近代社会への懐疑

 だが現在では、このような近代の軸になったものへの懐疑が広がりはじめている。クロード・レヴィ=ストロースは、フランス革命は今日の社会荒廃の出発点をつくったと述べている。理念が社会を導くという考え方がフランス革命によって定着し、それは帰属関係のなかでしか成立しえない自由や人々の生きる基盤を破壊してしまった。その結果人間は交換可能な無名の原子になり、相互に破壊し合う社会が生まれてしまった、と(『遠近の回想』みすず書房)。

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