連載小説:裂けた明日 第24回

執筆者:佐々木譲2021年10月9日
写真提供:AFP=時事

共同統治地域の潜入に必要な就労カードを偽造申請してくれるらしい行政書士。支払いを巡り、信也は男と交渉する。

[承前]

「わたしは沖本。こっちは」真智を手で示した。「酒井」

「そこで、書類を書いてください」

 空いたデスクがひとつある。守屋は、書類を信也に渡してきた。

「おふたりそれぞれ、それに記入してください。マル印がついているところだけです。記憶がないこともあるだろうけど、適当でいいです」

 デスクの椅子に着いて、書類を読んだ。本名、生年月日、現住所、携帯電話番号、特技資格。

 それに被災地名と、健康状態、就労希望期間だけだ。

 信也は守屋に言った。

「現住所は北なんですが」

「じゃあ、要りません。この近所にしておきます」

「被災地も北です」

「静岡県静岡市と書いて」

 南海大地震の被災地のひとつだ。信也のひとり息子とその家族も、静岡で被災し、命を落としている。

「特技資格では、自動車運転免許もですね」

「当然」

「健康状態はどのように?」

「普通と」

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