連載小説:裂けた明日 第28回

執筆者:佐々木譲2021年11月6日
写真提供:時事通信フォト

テント村を出た信也たちは、真智の仲間だという女性の車に乗る。到着した先は……。

[承前]

 ワゴン車が着いたのは、学校のような窓の多い建物の裏手だった。運動場のように見える広い空間があり、半分ほどは駐車場となっている。残りの半分のスペースには、建築現場用の仮設住宅が並んでいた。

 運転席の佐野が言った。

「もとの小学校です。廃校になって、NPOなんかが入っているんです」

 佐野は車を駐車場の奥へと進めて停めた。

 小学校の名を聞いて、沖本信也はここが、目黒区の東急東横線・学芸大学駅に近いところではないかと想像した。だとすると、いま走ってきた幹線道は目黒通りだ。学芸大学駅の近くにも旧政府軍の駐屯地があったから、その周辺は爆撃や市街戦で廃墟になったはずだ。もしかするとこの元小学校は、避難所とか被災者用住宅になっているのかもしれない。校舎だった建物の二階三階に並ぶ窓の照明は暗めだ。しかし、一階の窓にはすべて明るい照明が灯っていた。事務所などがあるフロアだろうか。

 ワゴン車を降りると、三杉由美が運動場側に向いた広い出入り口の方へと歩いていった。真智が三杉に並び、由奈が続き、信也はその後ろからだ。三人とも、自分たちの荷物は持ったままだ。

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