わが東京都は、毒ギョーザの情報を隠す中国当局とは違っていいはずだ。土壌汚染を始め山積する問題点をここで整理してみよう。「隠したってこと? 隠してませんよ」 東京都の石原慎太郎知事は、質問した記者をにらみつけた。一月三十日の定例記者会見。東京・築地市場の移転予定地から見つかった発がん性物質のデータを、都が公表していなかったことについて聞かれた石原知事は、記者に向かって八つ当たりともとれる言葉を吐いた。「あなたの質問の仕方には癖があるんだよ。都がことさらこの問題を隠しているように疑われるけど、変な風評被害を併発するんだよ」 まるで、記者が市場移転を邪魔しているような物言いだが、この剣幕に押された形で、これ以上の質問が出ることはなかった。 七十年以上にわたって東京都民の食生活を支えてきた築地市場の移転をめぐる騒動は、新聞やテレビのニュースとして取り上げられた。都民はもちろんのこと、国民の多くが「食の安全」に対する危機を改めて感じたことだろう。汚染だらけの土地に市場を移して、魚や野菜に影響はないのだろうか――。移転計画「迷走」の始まり 築地市場の正式名称は東京都中央卸売市場築地市場。都内に十一カ所ある卸売市場の一つで、名前の通り、開設者は東京都だ。江戸時代から続いた日本橋の魚河岸などが関東大震災で壊滅したのを契機に、一九三五年(昭和十年)に現在の場所に新設された。海軍の所有地だった約二十三ヘクタールの敷地は、銀座などの大消費地に隣接していることもあり、日本最大、世界でも屈指の魚市場に発展してきた。水産物の一日当たりの取扱量は二千七十トン、取扱金額は十七億四千三百万円(二〇〇八年)。最近では観光名所としても知られ、外国人向けのガイドブックにも必ずといっていいほど取り上げられている。フランスの「ミシュラン」では、観光地として二つ星が付けられているほどだ。

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