イギリス海賊の「母港」プリマスを訪ねて

執筆者:竹田いさみ2009年4月号

 ロンドン・パディントン駅から西南へ向かう列車に揺られること三時間半。英国を代表する港町プリマスに着いた。閑散とした駅のホームから小さな改札口を抜けると、英海軍(ロイヤル・ネイヴィー)の巨大な看板が眼前に現れ、プリマスが正真正銘の軍港であることをいやがうえにも実感する。 駅舎から二十分ほど歩くと、荒々しい海を見下ろす小高い丘「ザ・ホウ(鍬)」に辿り着く。英国人として初めて世界周航に成功したサー・フランシス・ドレークの銅像が聳え、海の守り神としてイギリス海峡(ザ・チャネル)に睨みをきかす。凜々しいドレーク像と肩を並べて、スペイン無敵艦隊(アルマダ)との海戦で勝利した記念碑が建つ。ここが「七つの海」を制覇した英海軍の最前線であった名残をとどめるかのように。 英国では、短くも爽やかな夏が終わると秋を一足飛びに越え、いきなり長く厳しい冬がやってくる。海からの容赦ない寒風に横殴りの雨や雪がまじると、一瞬にして全身の感覚が失われる。この海と空をキャンバスに描くとしたら、重苦しい鉛色か。希望をもたらすうららかな日差しなど望むべくもない。かくも陰鬱な自然の中で、イギリス人はプリマス港から小船を操って大海に挑んできた。北米大陸を目指した清教徒(ピューリタン)の一群が船出したのも、プリマス港の片隅にある小さな岩場からであったと聞く。

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