一国の脆弱性は国際交通システム全体の脆弱性に繋がる(羽田空港) ⓒEPA=時事

 交通とは、人やモノの移動と交流において中心的な役割を担う媒体である。生体に喩えるなら、血液を運ぶ血管だ。交通システムは第一次産業革命に始まった機械化で、比較的短期間に著しい発展を遂げてきた。自動車、鉄道、船舶、航空機等の生産量が増大するのと並行して、速度、馬力、搭載力も飛躍的に向上した。その結果、移動速度、運行距離、搭載量、運行量、アクセシビリティ、運行ルート等の拡大により、社会の発展に大きく貢献したのである。

 しかしその一方、交通システムの進化は、安全の面に深刻な課題を生み出した。公共交通システムの規模と役割の重要性を鑑みると、事故や災害により、直接的間接的または連鎖的に、人命、社会、経済へ計り知れない被害が及ぶからだ。こうしたリスクを前にして、交通システムの安全保障はもっと真剣に考慮されなければならない。

「意図的な加害行為」への対応を軸にする

 交通の安全保障とは何か。簡単に言えば、それは交通システムを脅威から守り、安全な運行を確保するための取り組みを指す。しかし、ここであらかじめ「交通の安全保障」の定義を整理する必要がある。留意すべきは、主として「意図的な加害行為」に対応するということだ。ゆえに、「アセット」「脅威」「脆弱性」の3点セットが課題の中心に位置している。

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