連載小説:裂けた明日 第42回

執筆者:佐々木譲2022年2月19日
写真提供:AFP=時事

真智と由奈には高麗連邦に居住する資格があると聞き、信也は二人を脱出させようと心に決める。そして、もう一人の旧友、加藤の手を借りることにするが……。

[承前]

 加藤のその言葉に、信也は少しだけ緊張がほぐれた気持ちを味わった。

「車で来ると言ったけれど、ひとつだけ教えてくれ。お前が参加しているグループというか、運動は、名前があるのか?」

「どうしてだ?」

「もし平和と自由フォーラムという団体だとしたら、接触しないほうがいいんだ。そこにはスパイが入り込んでいる」

 加藤は笑った。

「安心しろ。あそこほどきちんとした組織じゃない」加藤は、全権委任法が発動されたとき最初に逮捕、投獄された、リベラル政治家の名を挙げた。信也たちとほぼ同世代の、弁護士出身の人物だ。「あのひとたちと一緒だ」

 穏健で支持層の幅も広い運動ということだ。

 加藤は続けた。

「近くにコンビニがあるようなら、水と二日分くらいの食料を買っておいてくれ。こういう事態なんで、先が読めない」

「わかった」

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