通常兵器による抑止力を強化せよ

執筆者:田中明彦2009年5月号

 北朝鮮の「人工衛星」打ち上げは、失敗したようである。とはいえ、北朝鮮が弾道ミサイルの射程を着実に伸ばしていることは事実である。この状況をどう判断すべきか。 まず、これによって東アジアの核兵器や弾道ミサイルをめぐる状況が、質的に激変したわけではないことに注意する必要がある。なぜなら、今回の実験によっても、依然として北朝鮮がアメリカに対して核の第二撃能力を持つわけではないからである。したがって、アメリカが日本に差し掛けている「核の傘」、あるいはより広い意味での「拡大抑止」(第三国の軍事力によって自国への攻撃を抑止すること)の信頼性がただちに失われるわけではない。 わかりにくい話かもしれないので、若干、説明をしたい。関係する国が、N国、J国、A国の三カ国だとしよう。J国とA国は同盟国で、核兵器を持っているA国は、J国への核攻撃はA国への核攻撃と同じであって、そのような攻撃に対しては必ず報復すると宣言している。つまり、J国に対してA国は「核の傘」を差し掛けている。ここで、N国がJ国に対して核攻撃をしかける能力を持っていても、A国まで核攻撃をしかける能力が無ければ、A国の「核の傘」は有効であろう。なぜなら、A国はN国からの核による反撃を恐れることなく、N国に対して報復を行なうことができるからである。つまり、この状況では、N国によるJ国への核攻撃は、自殺行為に他ならなくなる。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。