康有為――不易の思想家(上)

甦る近代の変革――清末民国

執筆者:岡本隆司2022年3月12日
思想界が沈滞した清代、孔子(左)を改革者とみなす新思潮を発展させた康有為(右)

 

その言は康有為の『孔子改制考』『新学偽経考』を主として、さらに「平等」「民権」「孔子紀年」などの謬論で補ったものである。六経を偽作とするのは、聖人の経典を滅ぼすにひとしく、孔子が制度を改めたといえば、あるべきしきたりを乱すにひとしい。人々の「平等」をとなえては、儒教の三綱五常をおとしめるし、「民権」を伸張させると、君上を無(なみ)してしまう。「孔子紀年」を使えば、人々はわが清朝の存在を知らなくなりかねない。(『翼教叢編』蘇輿「序」)

 以上は康有為という思想家・政治家の著述・学説を批判した文章の一節。典拠の書名「翼教」とは、正しい儒教の教義を扶翼する、まもってゆく、という意味である。

 時に清朝の光緒24年、西暦では1898年だから19世紀も末の末、日清戦争も終わった後の時期であった。「中華帝国」が地上から消滅するまで、残すところ20年を切っている。

 その当時、どうしてこんな文章が出なくてはならなかったのか。それこそ「中華帝国」が終局に向かうプロセスと深く関わった批判なのであり、本章はそうした事情をみつめなおしたい。

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