岸田政権は経済安全保障を政策の柱の1つにしているが、食料への関心は…… (C)時事

 1月17日に行われた岸田文雄首相の施政方針演説では「経済安全保障」が語られたが、そこでは「食料安全保障」についての言及はなく、農業政策の目玉は“輸出促進とデジタル化(農業DX=デジタル・トランスフォーメーション、スマート農業)”が語られたのみだった。

「農産物輸出1兆円」の嘘

 食料や生産資材の高騰と、中国などにたいする「買い負け」(買値で他業者に負けて、買い付けができなくなること)が顕著になってきて、国民の食料確保や国内農業生産の継続に不安が高まっている。そんな今、前面に出てくるのが“輸出促進とデジタル化”とは、政府の危機認識力が欠如していると言わざるを得ない。

 輸出促進を否定するわけではないが、食料自給率が世界的にも極めて低い37%(カロリーベース)という日本にとって、食料危機が迫っているときにまずやるべきは輸出促進でなく、国内生産確保に全力を挙げることであろう。

 しかも、農産物・食品の輸出が1兆円に達したというのは「粉飾」である。ウイスキーやコーヒー、チョコレート、みそ・しょうゆなど輸入原料に依存した加工食品が多く、本当に国産の農産物といえる輸出は1000億円もないとの試算もある。それを5兆円に伸ばすという「空虚なアドバルーン」を上げることに、どれだけの意味があるのだろうか。デジタル化も否定するわけではないが、デジタル化ですべてが解決するかのような夢物語で気勢を揚げることに意味があるとは思えない。

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