「シューカツ」の愚

執筆者:2009年5月号

 この時期、実にいやな言葉がはびこる。「シューカツ」。すなわち「就活」、そう、就職活動である。上から下まで黒ずくめのスーツ姿、男は臙脂のネクタイ、女は白のブラウス。一世代も前のようないでたちは、いわゆるリクルート・ファッションと呼ばれるもので、黒いかばんを提げ、どこか沈んだ表情をしていれば、大概、会社訪問や入社試験に出かける学生だ。 世界不況のさなかの今年のシューカツは実に厳しいようだ。エントリーシートを提出させ、求職者を集めた会社が、入社試験をする前に採用中止を伝えるケースも増えているらしい。不況ゆえに公務員志望が激増している。 シューカツ関連の書籍が飛ぶように売れる。大学周辺の美容院では、髪を黒く染めに来る学生が引きも切らない。大学のキャンパスはこの時期、にわかづくりの「好青年」「良家の子女」であふれている。ここまで勉強とは無縁な生活を送り、遊び呆けてきた学生たちは、教養の欠落を補うために、一夜漬けで「常識」を詰め込む。過去の入社試験の問題と、今年の予想を載せた問題集は実によくできている。しかしながら、社会に出てから何の役に立つのかと首をかしげたくなるような問題ばかりなのだ。 何をしたいのか、を考えるのはシューカツの始まったばかりのころの話で、しだいに手当たりしだいになる。エントリーシートだけで四十通も五十通も出す学生は珍しくない。何千通もの申込者の中で目立つために、よく撮れた写真を何枚もコピーしたり、しゃれた言葉の見出しをつけたり。大学でどのような勉強をしてきたかを書く学生はほとんどいない。勉強していないからだ。「内定」にまでこぎつけるにはいくつもの関門を潜り抜けなければならない。

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