検証「給付付き税額控除」のメリットと課題

執筆者:古川清毅2009年5月号

導入されれば、税制のみならず年金、社会保障制度、行政改革にまで影響を及ぼす可能性を持つ。最大の壁は、やはり霞が関――。 現実味を帯びてきた消費税率引き上げ論議の陰で、所得税の大改革がひそかに進行している。徴税業務と社会保障給付を組み合わせた「給付付き税額控除」がその「震源」で、与党に加え、民主党も実現に前向きな姿勢を示している。欧米では既に一般的な制度だが、導入が実現した場合、日本の税制はどう変わるのだろうか。 現行の所得税は、給与などの所得から基礎控除や配偶者控除など各種控除を差し引き、残った額に課税する仕組みだ。夫婦と子供二人の標準世帯の場合、所得総額が三百二十五万円を下回ると所得より控除額の方が大きくなり、所得税は発生しない。この境目を「課税最低限」と呼ぶ。 問題は、例えば政府が景気対策として所得税減税に踏み切ったとしても、もともと税金を払っていない課税最低限以下の世帯にはまったく恩恵がないことだ。政府が減税策を打ち出すたびに「高所得者優遇」と批判が起こるのも、ここに根本的な原因がある。 麻生政権の迷走の一因ともなった「定額給付金」の導入過程が、そのいい例だろう。昨年夏にこの“ばらまき政策”を発表した時点で政府が想定していたのは、所得にかかわらず一定額を減税する「定額減税」だった。しかし、「低所得者への配慮を欠いている」と身内の与党内でも反発が広がり、一人当たり一万二千円(高齢者や子供は二万円)の給付方式に改めた経緯がある。

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