原油暴落でも「したたかな中東」は沈まない

執筆者:五十嵐卓2009年5月号

中東経済は終わった――果たしてそうだろうか。原油一本槍の恐ろしさを知る産油国は、すでに未来を見据えて着々と手を打っている。 昨年七月に米WTI原油先物が一バレル=百五十ドルに迫ったころ、世界のメディアは半ば羨望を込めて、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイを盛んに取り上げた。ドバイ自体の原油生産量は少ないが、サウジアラビアなど周辺産油国からオイルマネーを吸い寄せ、空前の繁栄を謳歌していたからだ。時あたかも街の中心部で世界最高層ビル「ブルジュ・ドバイ」の建設が進み、地元の不動産や株式の暴騰が話題になっていた。 それから半年後。世界の新聞、テレビは、今度は建設工事が止まり職にあぶれたパキスタンなどからの出稼ぎ労働者が街にあふれる様子を描き、「ドバイの終焉」と断じた。原油価格が最高値の四分の一以下に落ちこみ、「百年に一度」の金融危機もあって、産油国経済の崩壊は近いとみたからだ。メディアが手の平を返すのはよくあることだが、これほど短期間に評価を百八十度変えたケースは珍しい。 では、中東産油国の経済はこれで再び低迷し、世界から忘れ去られていくのか。答えはノーだろう。一九七三年の第一次石油危機以来、中東産油国は原油価格の変動で幾たびも絶頂とどん底を経験してきた。もはや原油価格に左右されるだけの弱い経済ではない。むしろ今回の原油危機のなかで、新しい国づくりの芽が出始めている。

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