支援の継続を求めるゼレンスキー大統領(C)AFP=時事

 

エスカレーション抑止を巡るエコーチェンバー 

高橋 小泉さんとも一緒に出版した『「核の忘却」の終わり:核兵器復権の時代』(勁草書房/2019年)の時のプロジェクトの勉強会で、小泉さんがロシアの「エスカレーション抑止」は西側で盛んに論じられている割に東側では一次資料として確認できないと言っていたのが印象的でした。 

 

小泉 当初は一次資料を確認できなかったのですが、後にロシア軍の参謀本部が出している『軍事思想』などの雑誌が利用できるようになり、そのような議論がたくさんあることは確認できました。ただ、専門家の間で盛んに議論され、このような戦略が必要であると言われているということは、まだ公式の戦略になっていないということでもある。 

 エスカレーション抑止が公式の核ドクトリンにならなかったのは、その一種のヤバさが認識されているからだと思います。ロシア軍の中でも積極論もあれば慎重論も相当あり、いきなりエスカレーション抑止のために核を使うよりは、まずは精密誘導兵器や極超音速兵器などの通常兵器でエスカレーション抑止を図り、その上の段階に核兵器の使用を想定するという方向にエスカレーション抑止理論が複雑に精緻化されていっている。 

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