【トップランナー】東京海上ホールディングス株式会社取締役社長 小宮 暁

今までの常識が通じない、不連続な社会・時代の“いざ”を支える。

執筆者:フォーサイト編集部2022年7月1日
 

【経歴】こみや・さとる 1960年神奈川県生まれ。83年東京大学工学部卒、東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)に入社。東京海上ホールディングス経営企画部長、常務執行役員、専務取締役海外事業総括などを経て2019年6月から現職。

 日本は東日本大震災などの地震災害に加えて、近年は予想を超えた甚大な風水害が頻発し、国民生活は脅かされている。国際的にはロシアによるウクライナへの侵攻などもあり、リスクの広がりは予断を許さない状況だ。それだけに損害保険会社の社会に果たす役割は年々、大きくなっている。東京海上ホールディングス株式会社取締役社長の小宮暁氏に話を聞いた。

Q1.損害保険業界を取り巻く環境についてお話しください。

 経済発展や技術革新に伴ってサイバー攻撃などの新たなリスクが生まれているほか、人口動態の変化や自然災害の激甚化、ロシアによるウクライナへの侵攻をはじめとする地政学的リスクの高まり、ウィズコロナを前提とした生活様式の変化など、私たちを取り巻くリスクや不確実性は一層増大しています。今までの常識が通じない、不連続な社会・時代に突入しているからこそ、損害保険事業を主たるビジネスとする東京海上グループは、これまで以上に変化を先取りし、世の為、人の為に何ができるのかを考え抜かなければならないと強く感じています。

Q2.その中で東京海上グループの戦略は。

 当社グループは1879年の創業以来「お客様や地域社会の“いざ”を支え、お守りする」というパーパスを起点に、時代と共に変化する様々な社会課題の解決に貢献することで成⻑してきました。事業活動と社会課題解決を循環させながら持続可能な社会の実現に貢献し、当社の社会的価値と経済的価値を同時に高めていくことが当社グループの目指す姿です。

 例えば、近年の重要な社会課題の一つとして、地球規模で進む気候変動に伴う自然災害の激甚化への対応が挙げられますが、お客様のニーズに沿った商品開発はもとより、テクノロジーを活用した迅速な保険金支払いの仕組み構築、そもそもの被害を軽減する防災・減災につながるソリューション提供といった多面的なアプローチからその解決を図っていきます。

 一方で、世界各地で激甚化する自然災害リスクをお客様から引き受け、確実に保険金をお支払いするためには、強固な経営基盤が必要です。再保険等により保険引受リスクを適切に管理するとともに、ビジネスのポートフォリオを地理的・事業的・保険商品的に分散させることで、更に安定的な経営基盤を構築していきます。

Q3.リスク分散をどのように進めてきたのでしょうか。

 リスクを分散させるため、当社は約20年をかけて、とりわけ2008年以降は、先進国と新興国の双方で戦略的にM&Aを実施し、海外保険事業を拡大しています。

 現在は46の国と地域で事業を展開しており、20年前にはわずか3%だったグループ全体の利益に占める海外保険事業の比率は、50%以上にまで拡大しています。このように、当社は日本の自然災害リスクと直接的に相関しない海外保険事業を拡大してリスク分散を進めることで、リスク量を適切にコントロールしつつ、当社独自のグループ一体経営を行い持続的な成長を実現してきました。

Q4.グループ一体経営の特徴を教えてください。

 海外M&Aによって得られた最も大きな価値の一つは、優秀な人材と専門性の獲得であり、多様な人材をグローバルに最適配置することで課題解決力の向上やグループ全体のシナジーを追求してきました。これまで6年間かけて当社独自のグローバルなグループ一体経営を構築しており、海外事業や資産運用、保険引受について国内外のトップ人材による共同グループ総括体制とし、グローバル委員会を運営してグローバルな知見を結集し、経営の重要事項に取り組んでいます。今年度はさらに、海外人材をDeputy CxO (チーフオフィサー補佐)に登用するなど、グループ一体経営を一層前進させています。

 今や世界中のグループ会社で多様性あふれる人材が活躍していますが、こうした人材を一つに結びつけるのが、“To Be a Good Company”という東京海上グループのコア・アイデンティティです。現状に満足することなく、より社会に貢献できるよい会社をめざしていく、という考え方です。Good Company 実現のために、私自身がChief Culture Officer として定期的にメッセージを発信しながら、世界各地で真面目な話を気楽にする「マジきら会」を実施し、世界中の社員と対話してきました。また、世界中のグループ社員を対象にカルチャー&バリューサーベイを毎年実施し、高いダイバーシティを生かした経営につなげています。

Q5.今後の新たな取り組みや展望を教えてください。

 当社は今年1月、国際的イニシアティブであるNet-Zero Insurance Alliance(NZIA)に、日本の保険会社として初めて加盟しました。G20の要請により設立された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の日本人唯一の創設メンバーを擁する当社として、これまでの知見やネットワークも生かしながら、脱炭素社会の実現に向けた「保険業界における国際的なルール作り」に積極的に関与していきます。

 また、グループ一体経営を進める中で得られた豊富なデータと分析力を生かし、保険金支払いだけにとどまらない、「事故が起きる前と後」への事業拡大も進めていきます。例えば国内における防災・減災の取り組みとして防災コンソーシアム「CORE」を東京海上日動がハブとなって立ち上げ、多種多様な業界から55法人に参画いただいています。「CORE」をエンジンに、保険本業を通じて磨き上げてきたテクノロジーや蓄積したデータおよびお客様接点を活用し、10年後の収益の柱となる「防災・減災総合ソリューション事業」を構築していく予定です。また、防災・減災以外にも、ヘルスケアや再生可能エネルギー、サイバーなど、新規事業の構想や準備を進めています。

 当社は、引き続き社会課題解決のトップランナーとして、お客様や地域社会に価値を提供し続けることで、100年後も頼られ、真に必要とされる“Good Company”をめざしていきます。

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