朝夜交換記

執筆者:阿川佐和子2022年9月19日
ベーコンエッグは晩ごはんのおかずになる?(写真はイメージです)

 朝ご飯はいつもだいたいパンである。

 そもそも朝食は食べない主義(というほど強い意志ではないけれど)を長年通してきたのだが、六十歳を過ぎて結婚したら、亭主がきっちり三食食べる人だったおかげで食事のリズムが変わった。かわりに昼食を摂らなくなった。と豪語しつつ、新型コロナの蟄居生活が始まると、相方につられてつい、「一口だけね」と言いながら、正午の時報を過ぎた頃、前夜の残り物を漁ったりお茶漬けをすすったりラーメンを作ったり、夏の季節にはソーメンを茹でたり。「食べないって言いながら、よく食べるね」と周囲に呆れられるほどの規則正しい食生活を続けている。

 思えばこれは父親譲りかもしれない。各所で父は気取った調子で言っていた。

 「私は原則的に一日二食しか食べないんですよ」

 いわく、家族の寝静まった夜中を執筆時間に充てているので、毎日徹夜をする。だから家族が起き出した朝方にはひどくお腹が空いている。

 「いい加減に起きてもらいたいね。俺は腹が減って死にそうだ」

 父の不機嫌そうな台詞に何度、母と私はたたき起こされたことだろう。

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