【トップランナー】アサヒグループジャパン株式会社 代表取締役社長兼CEO 濱田賢司

「ヒトを重視」とサステナビリティを組み込んだ経営で、未来の社会からも評価されるグループへ。

執筆者:フォーサイト編集部2022年10月3日
 

【経歴】はまだ・けんじ 1964年埼玉県生まれ。86年横浜市立大学卒、アサヒビール(現・アサヒグループホールディングス)入社。アサヒグループホールディングス執行役員経営企画部門ゼネラルマネジャー、同取締役(CFO)、アサヒビール専務取締役などを経て今年1月から現職。

   少々高齢化社会の進行は、食品業界に対して消費者の嗜好やニーズ、あるいは消費量そのものの変化という形で大きな課題を投げかけている。一方で、その日常生活への身近さゆえに、業界の課題解決が私たちの未来を豊かにする重要なカギとなるのも間違いない。アサヒグループジャパン株式会社代表取締役社長兼CEOの濱田賢司氏に話を聞いた。

Q.業界の現状についてお聞かせください。

   日本国内の人口減少が続くと、想定では2030年以降、事業に与える影響が大きいとみています。また高齢化による1人当たり消費量の縮小は、特に酒類事業に大きく影響します。加えてロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、原材料価格やユーティリティコスト(水道光熱費)の上昇が続いています。さらに直近の円安の加速など日本経済全体に影響を及ぼす動きは業界全体にも波及するため注視しています。

   一方で、2026年までの酒税法改正はビール需要回帰へのさらなる追い風となることが期待されます。加えて構造的な変化も見逃せません。世代構成の変化、および生活者の消費性向・嗜好の変化により、今後は新たな需要・オケージョン・価値観など、これまでと異なる領域が成長の主戦場になることが予想されます。

Q.その中でアサヒグループジャパンの戦略は。

   アサヒグループジャパンは経営方針として「生活者起点でニーズ・変化を先取りし、One Asahiで次代の価値創造による成長、社会との共生を実現する」ことを掲げています。アサヒビール、アサヒ飲料、アサヒグループ食品などの事業会社は、「スーパードライ」「三ツ矢」「ミンティア」など唯一無二の選ばれるブランドを継続的に開発し、お客さまの期待を超える満足を追求しています。当社は各事業会社の後方支援部隊として、日本事業全体の持続的成長による企業価値向上とシナジー創出、ヒトを重視する経営、サステナビリティを経営に組み込む、を重視しています。

Q.ヒトを重視する経営とは。

   多様性や、公平性、包摂性を高めるための方策である「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」(DE&I)の日本国内の取り組みを推進し、方針を決定する場として、DE&I委員会を設置しました。私は委員長として、各事業会社社長をはじめとしたメンバーとともに、月に1度DE&Iについて討議をし、国内のアサヒグループの社員一人ひとりが、自分らしく自由に活躍するための基盤づくりを進めています。ヒトの能力とモチベーションが会社のパフォーマンスを決定します。アサヒグループにも当たり前のようにDE&Iが根付くことで、社員が成長し自己実現を図り、誰もが最大限の可能性を等しく発揮してほしいと考えています。

Q.サステナビリティを経営に組み込むとはどういうことでしょうか。

   SDGsに代表される社会課題への対応、環境問題やサステナビリティ・循環型社会の実現に取り組むことが必須の時代となりました。アサヒグループ全体の経営方針でもありますが、サステナビリティを経営にしっかりと組み込み、未来の社会からも評価されるアサヒグループを創りたいと考えています。グループで設定したマテリアリティ(重要課題)である「環境」「人」「コミュニティ」「健康」「責任ある飲酒」それぞれのテーマに関して、社員一人ひとりが当たり前に向き合い、ヒト・モノ・コトをつなぐことで、事業を通じてサステナブルな社会づくりの一翼を担う存在になるような経営を実践しています。

Q.具体的な取り組みは進んでいますか。

   アサヒグループジャパンの取り組みでは、林野庁の主催する「森林×脱炭素チャレンジ2022」において、「アサヒの森」がグランプリ「農林水産大臣賞」を受賞しました。アサヒの森は広島県庄原市・三次市に2165ヘクタールあるアサヒグループの社有林です。1941年、アサヒビールの前身である大日本麦酒時代に、ビール瓶の王冠の裏地に使用していた輸入コルクが戦争の影響で途絶えることがないよう、アベマキの樹皮を代用とするためにアベマキ林を購入したことが始まりです。80年以上にわたり社員自らの手で持続可能な森林経営を実践しています。今回、CO2吸収量が年間816トンと脱炭素に貢献していること、森林を保有する数ある企業の中でも、単なる森林保全にとどまらず、森林資源の循環利用や公益的機能の発揮に資する幅広い取り組みが行われていることを評価いただきました。

   2022年1月に設立した「アサヒユウアス」では、地域との共創の取り組みを推進しています。一例として、廃棄物を有効活用したクラフトビールの製造はユニークな取り組みです。これまで、廃棄コーヒー豆を使った「蔵前BLACK」や、サンドイッチ製造で発生し活用しきれない“パン耳”を使った「蔵前WHITE」、製茶の際に除かれる茎の皮を使った「狭山GREEN」、観光農園で残ってしまったイチゴを使った「さんむRED」、茶葉の茎を活用した「豊田AMBER」などを開発し、地域の課題解決に取り組んできました。今後も同様の取り組みを拡大させていく予定です。

Q.今後の取り組みについて教えてください。

   これまでは酒類、飲料、食品などの各事業会社がそれぞれ別々にお客さまと向き合い、独立して事業展開をしてきました。これに対し、今後はお客さまの消費性向・嗜好を捉え価値を提供し続ける事業会社の役割とともに、サプライチェーンやコーポレートなどの機能を一つに集約し、より効果的かつ効率的な運営を図る後方支援の役割を適切な形にすることで、お客さまに提供する価値の最大化を図っていきます。

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