インフレ目標の導入によって金融政策と財政の相互連関は強まった[黒田東彦・日銀総裁=2022年11月14日](C)時事

 急激な円安とインフレのなかで金融政策への批判が高まっている。「異次元緩和」については、マクロ経済的な観点から様々な議論があるが、ひとつだけここへきて間違いなく「大成功」と評価できる(?)点がでてきた。財政再建への貢献である。

誰も語らないステルス増税

 10月のインフレ率が前年比3.6%に達する一方、金利が長期も含めてゼロ近傍に抑えられている事で、1100兆円(2022年6月末)という個人の現預金が40兆円近く目減りしたことになる。インフレを通じた資産の目減りは、増税と同じ効果を生むことから「インフレ税」と称される。

 40兆円を増税で賄おうとすれば、消費税なら1年間20%という、ほとんど政治的に不可能な引上げが必要になる。これだけの実質増税がマスコミ等で話題になっていないステルス性が、インフレ税の恐ろしさだ。

 税収が増加し国庫が潤っている訳ではないので、「税」と呼ぶのは不適切という反論があるかもしれない。しかし、インフレによって約1000兆円(奇しくも日本の個人金融資産における預貯金とほぼ同額)の国債残高の返済負担は、同じく実質で40兆円程度軽減される。逆に言えば、金利がインフレ率に応じて上昇したなら、国債相場は大暴落していたはずだ。多くのエコノミストが「金利が上がると大変なことになる」と指摘したのはその問題だった。物価が上がっても金利が上がらなかったことで、財政は負担を免れた。だが、預金者が代わりに「大変なこと」になっているのである。

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