最後に言いたかったこと

執筆者:2009年6月号

「異端妄説」とは福澤諭吉の言葉をちょいと無断借用した。もう始めてどのぐらいになるかわからぬが、今回を最終回とすることにした。本誌の編集長も代わり、編集方針も斬新なものになるだろうから、その邪魔にならぬように身を引くことにした。というのは言い訳で、さほど若くない「蠅」子としては、いささか体力的に疲れてきたということが第一。第二に、世の中なかなか異端妄説といかなくなってきたということである。異端、と思ったらそれが実は本筋になってしまったり、妄説が単なる凡庸な見方にすぎなかったりする。 最終回に言っておきたいことは、この国には、あるいはこの社会にはおかしなところがたくさんあるが、決してどんどん悪くなっているわけではないということである。たとえば、「政治は相変わらず金まみれ」という言い方は、当たり前のことで何も間違っていない、と考える人が圧倒的だろう。 しかし、考えてもみるがいい。自民党の派閥の領袖が何十億円もの金を配ったり、総裁選で巨額の現金が飛び交ったりする時代はもう昔の話になった。政治家はみな貧乏で、金の工面に四苦八苦している。そこで事務所経費をごまかしたり、政治献金のルートを少しばかり変えてみたりする。小沢一郎民主党代表の政治献金問題も、一昔前なら法にも触れないような話だったが、度重なる政治資金規正法改正で、公設第一秘書逮捕にまで発展したのである。

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