パパ活してみた、学生たちの体当たり取材

執筆者:白戸圭一2023年1月19日
「パパ」とのデートで何が見えてきたのか(C)すまりん/photo-ac.com
立命館大学国際関係学部の白戸圭一教授が「ジャーナリズムの実践」をテーマに開いているゼミの学生たちが、「パパ活」の実態を取材した。2人の子を持つ50代のある「パパ」は「刺激的な疑似恋愛を求めて」若い女性とデートし、パパ活をしているある女子大生は「1回3~4万」で肉体関係を持ち「生活費の足しにしている」と話す。浮かび上がるのは、男性中心主義や貧困といった様々な社会問題だ。

 

 若い女性が裕福な男性とデートして、報酬として金銭を受け取る「パパ活」。性的関係を持つことが必須ではない点が「売春」や「援助交際」とは異なるとも言われるが、セックスに応じる女性もいるという。いまや男性国会議員の「パパ活」疑惑が週刊誌で報道される時代。筆者が勤務する立命館大学国際関係学部(京都市)のキャンパスでも「〇〇がパパ活している」といったヒソヒソ話が交わされている。

 では、一体、どのような女性がパパ活し、どのような男性が「パパ」になるのか──。そんな疑問を抱いた私のゼミの学生たちがパパ活の実態を取材してみた。そこから何が浮かび上がったのだろうか。

「ジャーナリズムの実践」ゼミ

 国際関係学部では毎年11月に、各ゼミが学習成果を発表する「オープンゼミナール大会」が開かれる。

 私のゼミは「ジャーナリズムの実践」をテーマに活動している。ゼミの目的は、メディアやジャーナリズムを研究対象にするのではなく、学生が自ら取材テーマを決め、人々への取材を通じて様々な社会問題の背景を理解し、社会の複雑さや人間の奥深さを体感することにある。指導教員の私は適宜助言を与えるが、テーマ選択にも取材にも一切関与しない。過去には、大学生の間で密かに広がっている怪しい携帯電話販売ビジネスの実態や、ミスキャンパスの内幕などについて取材し、大会の場で活字や映像で取材成果を発信してきた。

「我々のチームはパパ活の実態を取材し、ゼミナール大会で発表しようと思います」。ゼミナール大会を5カ月後に控えた2022年6月15日のことだった。ゼミの3回生7人でつくる取材チームから取材テーマの決定について報告があった。

「友達から、サークルの先輩がオジサンの愛人になっていると聞いた」

「〇〇ちゃんはパパ活やっているらしい」

 学生たちは時折、そんな話を小耳に挟んではいるが、コトの真偽も実態も、本当のところはよく分からないので取材してみようと考えたという。

92人中5人がパパ活経験者

・パパ活が一般化したと言われるが、若い女性の何割くらいがパパ活経験者なのか。

・一般化しているとしたら、なぜ若い女性はパパ活に走るのか。

・売買春は違法とはいえ、風俗店では事実上黙認されている現実もある。なぜ、オジサンたちは『プロ』の女性ではなく一般の女性と関係を持ちたいのか。

・パパ活の広がりは、現代日本の何を象徴しているのだろう。

・そもそもパパ活って悪いことなのか。悪いとしたら、なぜ?

 そんな疑問を胸に学生たちが最初に取り組んだのは、聞き取り調査とアンケートだった。7月6日から京都市内の繁華街を歩く若者への聞き取り調査及びウェブ上でのアンケートを開始し、最終的に計92人(20代67人、10代22人、30代以上3人)から回答を得た。回答者の73人は女性だったが、このうち5人が「パパ活した経験がある」との回答だった。最近は、若い男性が年上の裕福な女性から金銭を受け取りデートの相手となる「ママ活」も存在すると言われるが、男性回答者19人の中にママ活経験者はいなかった。

マッチングアプリでパパを募集

 不特定多数の人々を対象としたアンケートなど、ゼミの活動ではよくあることだ。しかし、次なる取材計画を学生から聞かされた時には、私も一瞬たじろいだ。「パパ」である中高年男性の素性や本音を知るために、女子学生たちがスマートフォンのパパ活用マッチングアプリに登録し、「パパ」を募集して実際にデートしてみるというのだ。

「『パパ』になったことのある男性」は、どこか後ろめたいところがあるはずなので、簡単には見つからないだろう。また、「取材」であることを明かしてマッチングアプリに登録すれば、「パパ」として応募してくる男性は皆無に違いない。そこで、「取材」であることを伏せ、女子学生が「パパ」を募集してみたら、どのような人々がどのような理由で「パパ」になっているのか、本当の現実が分かる──。学生たちはそのような取材計画を私に提案してきた。

 取材チームの女子学生たちはやる気満々で、「食事をするだけだから大丈夫です」と言う。だが、インターネット上で知り合った見知らぬ男性と面会することに伴うリスクはゼロではなく、指導教員としては学生の安全に関してためらいがあった。

 私は悩んだ末に、最終的に学生たちの自主性を尊重して取材計画を認める代わりに、学生たちの安全確保に関して具体的に指示した。絶対に「パパ」と自家用車やタクシーに乗らないこと。デートの際にはホテルでは会わず、衆人環視の居酒屋やカフェで会うこと。周囲のテーブルには他のゼミ生が客を装って座り、デートの様子を「監視」すること──などだ。

 7月中旬、取材チームの女子学生2人がパパ活用マッチングアプリに登録して「パパ」を募集すると、瞬く間に中高年男性からデートの希望が殺到し、結局2人は計7人の「パパ」に会うことになった。「本当に『パパ』が連絡してくるのかな?」と半信半疑だった学生たちは腰を抜かした。

「えっ? 『パパ』ってこんな簡単に集まるの!」

「パパ」はどんな人物なのか

 結局、3人の女子学生が8人の「パパ」とデートすることになったが、このうち女子学生2人はマッチングアプリで知り合った7人の「パパ」とデートすることになった。

 女子学生A(21)は7月中旬から8月上旬にかけて、京都市内と大阪市内の居酒屋とカフェで計4人の「パパ」に会った。4回とも食事はいつも「パパ」の支払い。京都市内の居酒屋で会った50代の男性は、帰り際に「交通費ね」と言って5000円をくれた。Aは受け取りを拒んだものの、男性は「いいから持っていきなさい」。仕方なく受け取ったAは「取材で出会った以上、自分のお金にするわけにはいかない」として、取材チームの必要経費に使うことにした。

 Aは「若い人と話すのが上手な人が多いと感じました。『家族との関係は良好』と言いながらも、家の外で恋愛したい男性が多いのは驚きでした。私はセックスは絶対に嫌だが、4人と会ってみて、顔を合わせて食事するくらいならばいいんじゃないかな、とも思いました。お金もらってご馳走食べて、パパ活にはまる女子がいるのも不思議ではない」と振り返った。

 女子学生B(22)は、京都市内の居酒屋で50歳の「パパ」と会った。東京都内でアパレル企業を経営しているという男性の年収は約1200万円。妻、中学生、小学生の子供の4人家族。「どうしてこんなことしているのですか」とのBの質問には、「京都に出張する機会が多いので、気軽に会って飲める女の子を探していた。刺激的な疑似恋愛を求めて」との回答。隣のテーブルに「監視役」の取材チームの学生がいるとも知らず、自身がヨーロッパの高級ブランド品を売る企業相手に「対等な付き合いをしている」ことを得意になってしゃべり続けた。2時間ほど経ったころ、学生が「奥様はどんな方ですか」と尋ねると、「続きはホテルに行って話そう」と誘ってきたので、Bはデートを終了した。

 マッチングアプリを通じてBに連絡してきた43歳の公認会計士資格を持つ会社経営の「パパ」は、京都・祇園の個室焼き肉店でのデートをBに求めてきた。個室でのデートとなれば、隣席の学生たちが秘かに「監視」する安全策は採れない。

 相談を受けた私はさすがに心配になり、Bと別の学生2人の計4人で祇園に出向き、焼き肉店前の路上でBと落ち合う「パパ」の様子を物陰から観察した。顔つきや雰囲気から、少なくとも反社会勢力の人間ではなさそうだった。Bには事前に「体を触られるなど不快であると感じた時には即座に離席し、私に連絡すること」「トイレに立つ際には、飲み物に睡眠導入剤などを混入されないようグラスを空にすること」などの注意を与え、私たちは店外でデートが終わるのを待った。

 約2時間後、「いま女子トイレにいます。『パパ』は会計中で、これから店を出ます」とのLINEメッセージがBから届いた。店を出る際、「パパ」がBを強引にタクシーに乗せるようなことがあっては大変なので、私は焼き肉店前の路上でBと「パパ」が出てくるのを待った。2人は店を出ると肩を並べて100メートルほど歩き、路上で別れた。すぐさまBと合流して話を聞くと、「2軒目に誘われたので、これはまずいと思い『帰ります』と言って別れました」とのことだった。

 個室焼き肉店での会計は2人で計25,880円。Bは「若い娘と会っているところを見られたくないので個室の店にしたらしいのですが、初対面の私みたいな小娘にこんな高額の食事をおごるのは、正直、気持ち悪かったです」と振り返る。

「パパ」は既婚者で小学生の子供が1人。「女の子の同意があればセックスもしたい。以前はクラブにも風俗店にも行ったが、プロの女たちは、俺がカネを払っているから笑顔を作っているだけ。こうやって素人の女の子の笑顔を見るのがいい」と語ったというが、Bは私に言った。「意味が分かりませんでした。だって、私も高級焼き肉をご馳走になっていたから、仕方なく笑顔を作っていただけです」

 父親に近い年齢の「パパ」とデートしたBの感想が興味深い。Bは「パパ」たちが必ずしも性行為の相手として若い女性を求めているのではなく、むしろ「話し相手」を痛切に欲しているのではないかと感じ、中高年真っただ中の私に率直な疑問をぶつけてきた。

「皆さん、あわよくばセックスしたいとは思っているのかもしれませんが、社会的に成功している人たちなのに、こんな20歳を超えたばかりの未熟な女性を相手に仕事上の武勇伝をうれしそうに話すのが印象に残りました。奥さんや同世代の女性は聞いてくれないのかな、仕事以外の話題はないのかな、と。女性はいくつになっても他愛のないお喋りをする友人がいることが多いと思うのですが、男性は中高年になると、仕事以外のことを気軽に話せる相手がいなくなるんですか、先生?」

なぜパパ活をするのか

 取材チームは「パパ」への「体当たり取材」と並行して、様々なツテをたどってパパ活に勤しむ若い女性たちを探し出し、話を聞いた。取材に応じてくれた女性の一人は、中年男の「パパ」がいる東京都内の国立大学の4年生だった。

 大学入学後、塾講師などのアルバイトをしていたが、給与の安さに不満を感じて風俗アルバイトに転身。やがて所属する店に売り上げの一部を持っていかれることに嫌気が差し、「中抜き」のないパパ活を始めた。「実家があまり裕福ではないので、生活費の足しにしている」という女性は、1回3万~4万円でセックスの相手もしている。「パパ」がそれ以上払ってくれれば、性行為中の動画撮影にも応じているという。

 一方、関西の私立大学を卒業後、ドラッグストア経営企業に就職した社会人1年生の女性は、「40歳、48歳、50歳の計3人のパパと定期的に会っている」と取材チームに語ってくれた。女性は高校卒業まで厳格な両親の下で育ち、息が詰まりそうだったが、1人暮らしをはじめた大学時代にパパ活を始め、両親の支配から解放された気持ちになったという。就職した今、生活には全く困っていないが、勤め先の給与は安いし、ぜいたくはできない中で、パパ活は今も貴重な収入源だという。女性は言う。

「若い娘と話す機会のないオジサンたちは、非日常を求めているのだと思う。日常から解放されたいというオジサンたちの願いに応え、自分はいただいたお金で質の良い物をそろえ、長く使い続けることができる。パパ活に何か悪いことがあるの?」

 取材チームの学生たちが女性のインスタグラムを見つけた。そこには、勤め先の給与では手が届きそうもない高級ホテルに女性が宿泊している画像などがあった。

識者はパパ活をどう見るか

「パパ」と若い女性の双方に話を聞いた取材チームの学生たち、とりわけ女子学生たちは複雑な感情を抱いたという。男女双方の同意の下で行われるのならば、別に問題ないのではないか、という思いもある。一方、そうは言いながらも、自分は積極的にパパ活で稼ごうとは思わないし、その心情の底には自分の性を「商品化」することへの抵抗感のようなものもある。何より父親が娘の自分と同世代の女性の「パパ」になっていたらショックだし、軽蔑するだろう。この相反する複雑な感情の正体は何なのだろう──というわけだ。

 明快な「答え」が見つかりそうもない疑問に直面した学生たちは、様々な識者の意見を取材してオープンゼミナール大会で紹介し、「パパ活をどう考えるか」を社会に問いかけることにした。学生たちの取材依頼に対し、様々な分野で活躍している識者の方々が快く応じて下さった。指導教員として、この場を借りて深くお礼申し上げたい。

 以下、学生が集めた識者の方々のパパ活についての考えの一部を紹介したい。

 自身の経験を基に格差や貧困の問題に取り組んでいる作家・活動家の雨宮処凛さんは学生らの取材に、「パパ活は援助交際をマイルドにした表現であり、男性側が自分を正当化し、若い女性を金銭的に援助してあげているといった美しいストーリーを自分の中で作り上げている」と「パパ」になる男性たちを批判した。

 パパ活する若い女性に向けて「性を商品化している」などと批判する声について、雨宮さんは次のように反論する。

「心の問題の背景には経済的な不安が存在しているにもかかわらず、若い女性が性産業に関わった途端に『自己責任』と突き放される。日本の社会には、未来ある若者を国が育てていく姿勢が欠けている。男性中心の日本の社会構造こそが、パパ活のような現象を生み出している」

 芥川賞作家の平野啓一郎さんは学生らの取材にこう語った。

「大前提として、貧困問題それ自体は解決すべきだ。そのうえで、金銭の授受により、男女間の権力勾配が固定されるならば問題。ただ、これはパパ活に限らず、一般的な恋愛関係でも隠されている問題だろう。不倫には配偶者への不誠実があるが、金銭の授受を介した愛人関係自体の倫理的な善悪は、本人同士の合意が十分である場合、根本的な否定はできないのではないか」

 性風俗や障害者の性など、光の当たりづらい性の現場の課題解決などに取り組むNPO法人風テラス理事長・ホワイトハンズ代表の坂爪真吾さんは学生の取材に「パパ活については否定も肯定もしない。人間関係をデザインし、自己責任で行うものだろう。ただ、パパ活の関係は、どれだけ続いても何も残らない。お互いにとって都合の良い関係であり。当事者はそこが良いのだろう」と、日本社会におけるパパ活という現象の拡大を分析してみせた。

 一方、外国の識者の目に、日本のパパ活はどう映っているのか。アフリカ出身者として日本の大学で初の学長を務めた京都精華大学前学長のウスビ・サコさんは学生の取材に、「日本には芸者さんに付く旦那制度があったように、パトロン文化があるので、パパ活の存在に違和感はない。日本には『誰でも生活が保障されている』という表の部分と、『貧困層が存在し、それが女性に多く見られ、セックスワーカーなどマイノリティーの人々が社会から排除され守られていない』という裏の部分がある。パパ活にはそうした日本社会の問題が表れていると思う」などと語った。

 マッチングアプリなど「出会い」を加速する技術の進展、男性中心社会、女性に対する性的搾取、経 済の停滞と上がらない給料、貧困と格差、中高年男性の孤独、若い女性の不安──。一連の取材からは、そんなキーワードが見えてきた気もする。最後に取材チームの学生たちから、読者の皆さんに向けた質問を預かっているので記したい。「あなたはパパ活をどう思いますか?」

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