フランスはサルコジ大統領の音頭で、フランス料理をユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録すべく大々的な運動を展開中だ。フランス人シェフたちも賛同し、これに関する限り、毀誉褒貶の多い同大統領も国を挙げての支持を受けている。 世界各国で正餐のときの料理とされているフランス料理だが、この伝統を引き継いできたシェフたちの功労にフランス政府が公に報いたのはさほど昔ではない。料理界で国家功労のレジオン・ドヌール勲章を最初に授けられたのは一九七五年、ヌーベル・キュイジーヌの旗手、ポール・ボキューズだった。 それまでは厨房にこもって働く職人としかみられていなかったシェフたちが、このときフランス料理という偉大な文化の担い手であると認められ、その地位向上に大きく貢献した。 叙勲はこの年の二月二十五日、エリゼ宮(大統領官邸)で行なわれた。ときのジスカールデスタン大統領(一九七四―八一年)は記念の昼食会を催し、料理をボキューズ本人のほか、名立たるシェフたちにエリゼ宮の厨房で競作してもらうという前代未聞の趣向を凝らした。 そのメニューのコピーが私の手元にある。つい最近、ボルドーワインの代表団がプロモーションで来日した折、知り合いでシャトー・ドフィネ・ロンディヨンの経営者、サンドリーヌ・フロレオンさんからもらったものだ。彼女はボキューズと親戚で、私が饗宴メニューを集めているのを知って融通してくれた。

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