広島サミットでの日韓首脳会談を前に握手する岸田文雄首相(右)と韓国の尹錫悦大統領=5月21日、広島市中区の広島国際会議場 (C)時事

 

 日韓関係が急速に改善している。きっかけは、3月に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が「半ば捨て身」の訪日を強行したことである。尹政権の外交戦略としては、5月のG7広島サミットで尹大統領が初来日し、それを起点に関係改善を加速させるプランが最も現実的な選択肢だったはずである。目下の懸案事項である元徴用工問題について国内世論が納得する出口を準備しないまま進めると、来年4月の総選挙に向けて逆風が強まりかねないからである。

 現在、尹大統領の与党「国民の力」の議席数(定数300)は115に過ぎず、円滑な政策運営のため次回総選挙での過半数獲得は必須である。ところが、尹大統領は元徴用工に対する賠償責任を韓国政府傘下の財団に負わせる「解決策」を手土産に3月の訪日を決めた。国内では日本企業による賠償を求める声が燻っているにもかかわらず、である。

岸田首相が呼応、予想以上のペースで進む関係改善

 日本政府も、尹大統領の動きに呼応するように半導体原料3品目の輸出管理を緩和、韓国を輸出管理上の優遇国(ホワイト国)に戻すなど、日韓関係の正常化を進めた。さらに、岸田文雄首相はG7サミット直前の5月7日に訪韓。G7サミットでは尹大統領の訪日が決まっており、3月から連続訪日となれば、日本に譲歩し過ぎる「屈辱外交」だとの批判が一層強まろう。そうした懸念に配慮する形で、日韓トップのシャトル外交がスタートした

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