北朝鮮「無謀な挑発」の核心は何か

執筆者:平井久志2009年7月号

なぜ、これまでの「論理」からは考えられない行動をとり続けるのか。謎を解くカギは四月の最高人民会議での「決定」にありそうだ。「国連安全保障理事会がさらに挑発をしてくる場合、それに対処するわれわれのさらなる自衛的措置が不可避となるであろう。朝鮮半島では冷戦がそのまま持続している。国連安保理がつくり上げた『国連軍司令部』がまさに、朝鮮戦争の休戦協定を締結した一方(の当事者)である。国連安保理の敵対行為は休戦協定の破棄になる」 北朝鮮外務省スポークスマンの五月二十九日付談話の一節である。 北朝鮮の動向が尋常ではない。後継体制は、金正日総書記の三男、金正雲への世襲が実質的に進みつつあるように見える。その一方で、五月二十五日に行なった二度目の地下核実験(二〇〇六年十月以来)に対して国連安保理が制裁決議を採択した場合には、「自衛的措置」として、核実験や長距離弾道ミサイルの発射どころか、朝鮮戦争の休戦協定の破棄を宣言する可能性まで示唆した。目的は「米との交渉」ではない これまで、北朝鮮の強気の姿勢は米国を交渉のテーブルにつかせるためと考えられてきた。そして、その「きっかけ」はいくつかあった。 まず、中朝国境付近で越境したとして逮捕された米国人女性記者二人の裁判(六月四日)である。米国側からはゴア元副大統領やリチャードソン・ニューメキシコ州知事などの「特使」派遣が検討されていた。そして、ワシントンでの米韓首脳会談(六月十六日)では、オバマ大統領自身の口から北朝鮮政策の方向性が語られる見通しであった。さらに七月にはタイで東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)が予定されており、そこで米朝外相の接触も可能である。一連のスケジュールの中で、米国の出方を見定めてから、核実験などの手段に訴えても遅くはなかった。

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