アメリカ(下) 激増する中南米系児童のための英語教育

執筆者:スティーブン・ソーチャク2009年7月号

[ワシントン発]よく晴れた、暖かい日。一週間雨が降り続いた後だけに、首都ワシントンに隣接するメリーランド州シルバー・スプリング地区のジャクソンロード小学校の子供たちは、休み時間になると一斉に校庭に飛び出した。 しかし、サンディ・ウエスト先生のクラスの児童だけは、休み時間返上で、黒板に書かれた五つのアルファベットと格闘している。八歳前後のこの児童たちは、黒板の文字を組み合わせて単語を綴ろうとしているのだ。簡単な作業ではない。異なる綴りで同じ発音になる“ir”“er”“ur”のうち、どれを使うのか、かわいらしい頭を悩ませているのだ。「言ったでしょう、英語はハチャメチャなのよ」。ウエスト先生は気の毒そうに声をかけた。 何十種類もの言語が流れ込んで成立した英語の特徴は、「多様」の一語に要約される。そして「多様」という表現は、英語を母語としない人々(ELL=English Language Learners)に施される英語教育を表すのにも適当だ。米国には、英語を母語としない児童を対象とする統一的な英語教育カリキュラムは存在しない。 学齢期にあるELLの数は膨大だ。国勢調査によれば、家庭で英語以外の言語を使う子供の数は約一千五十万人。教育省によると、そのうち約五百十万人が特別に英語教育を受けている。これは、全米の小中学生総数四千九百三十万人の一割強に相当する。そして、彼らの母語の種類は実に四百以上に及ぶ。

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