反日感情の存在する韓国が対中連携の分断を狙う影響工作のターゲットに選ばれた[福島第一原発のALPS処理水放出に対する抗議デモに参加した韓国の人々=2023年8月26日、韓国・ソウル](C)REUTERS/Kim Hong-Ji

 

安全保障の観点のみによる分析には死角も

 つい数年前まで、日本が海外からの影響工作の対象になっているという理解はほとんど見られなかった。影響工作に関して論じる研究でも、日本ではそれが行われていないか、影響が極めて限定的であると論じていた。

 こうした理解は、2022~2023年に起きた2つの事例を契機に大きく変化した。ロシアによるウクライナ侵攻、および東京電力福島第一原子力発電所の処理水放出である。ウクライナ侵攻を巡るロシア政府のプロパガンダが日本の知識人や政治家、メディアなどにも浸透し、様々なアクターがロシア発の偽情報を日本語で拡散した。福島の処理水放出を巡っても様々な偽情報が飛び交い、政治的意図を持って情報を操作するアクターが日本をもターゲットにしているということに日本社会はようやく気付いたようだ。

 鋭く反応したのは安全保障コミュニティである。ウクライナ侵攻を巡り、ロシアが重要インフラへのサイバー攻撃や情報操作による影響工作を軍事侵攻と組み合わせて行うハイブリッド戦争のアプローチを取っていることから懸念が高まり、ハイブリッド戦争に対する備えの必要性に関する認識が拡大した。特にロシアのウクライナ侵攻が中国による台湾の軍事併合シナリオの懸念を高めたことで、安全保障コミュニティはサイバー・情報戦に関する議論に本格的に着手し始めた。

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