中国とロシアに見るデジタル影響工作の生態系

執筆者:市原麻衣子2024年5月21日
日本、米国、中国の3カ国についてどのような印象を与える単語を使用しているかを分析すると――(薛剣駐大阪中国総領事のXアカウント)

 世界の政治状況を理解するうえで国家が重要な役割を果たしていることは否定できない。ましてや安全保障の領域においては、軍事力を持つ主体としての国家が中心的な役割を果たす。しかし、物理的な力に情報・認知戦が加わったハイブリッド戦の時代になり、注視すべき主体が一気に多様化した。影響工作が多種多様なアクターによって行われているためである。本稿では、こうした多様なアクターが織りなし、インターネット上で展開される影響工作の生態系の一端を説明する。

プロパガンダを広める政府機関と外交当局者

 影響工作の指揮系統として政府機関が中心的な役割を担っていることは論をまたない。他国への選挙介入や社会の分断などを行う中心的な国家としてのロシアと中国は、いずれも影響工作を担う機関を政府内に複数持つ。テキサス大学オースティン校(University of Texas at Austin)のグローバル偽情報ラボ(Global Disinformation Lab)によれば、ロシア政府内では連邦保安庁(FSB)、対外情報庁(SVR)、連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の3機関が影響工作の領域で活動をしている。中核的な役割を担う連邦保安庁と連邦軍参謀本部情報総局はサイバー空間での役割が主であり、対外情報庁は対人諜報活動を主に行っており、役割は比較的小さい。

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