矛盾を放置した「凡俗の皇帝」江沢民

執筆者:藤田洋毅2009年8月号

“瓢箪から駒”で中国のトップになったものの、荷が重過ぎたことは現実が証明している。“エセ皇帝”時代の秘史を明かす。「その瞬間、“一本樹木”になりました」――※トウ小平のあとを継いで中国のトップとなった江沢民は、予期せぬ事態に遭遇し、一本の木のように棒立ちになったことがある。しかも二度も。 一度目は、一九九九年九月三十日。翌日は建国五十周年を祝う国慶節で、その前夜に北京の人民大会堂で盛大な祝宴が開かれていた時だった。壇上で演じられる現代舞踏『錦錦繍江山』に合わせ、江が満面に笑みをたたえて入場、フロア最前列中央の円卓に向かおうとしたとき、突如、一人の老太太(年配の女性)が江に駆け寄り、足元にしがみついたのだ。 目撃した老軍人はいった。「江さんは、途端に凍った。女性をはねのけるでもなく、ただただ引き攣った顔つきで、一言も発しなかった」。 要人警護を担当する党中央弁公庁警衛局はその夜のうちに緊急会議を開いた。従来、最高指導者が式典に参加する際、四人の警衛が付き、当夜も江の後ろに縦列で従っていたが、以降は四角形の中央に要人を囲む陣形に変えたのだ。 走り寄った女性は東北部在住で、国有企業改革の煽りで企業幹部を務めた夫ともども生活が困窮に陥ったと訴えるため上京、友人の幹部から正式な招待状を譲りうけ、直訴状を手渡すつもりだったと判明した。

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