リスクを最小限に抑えるお任せ運用「ロボアド」投資術
8月の日経平均暴落を目の当たりにして、極限までリスクを減らした運用をしたいと思っている人は多いだろう。そこで、AIを活用したお任せ運用「ロボアド」はどうだろうか。
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日経平均株価が、史上最大の下落率となった8月5日には、数多くの日本人が驚いたのではないだろうか。とりわけ、今年から拡大利用されたNISA(小額投資非課税制度)で運用を始めたばかりというケースでは、改めて投資の恐ろしさを認識した人も多いかもしれない。
だが、結果的にその後、株価は完全回復とまではいかないものの大きく回復している。大暴落にうろたえて、保有している株式を売却してしまった人などは、動揺しているかもしれない。それだけ資産運用の難しさを改めて突きつけられた株価大暴落であったと言っていいだろう。
そもそも、資産運用にリスクはつきものだ。資産運用にリスクのない方法など1つもない。銀行の普通預金でさえも、インフレに弱いというリスクがある。それだけお金を管理していくことは難しいということだ。そこで、資産運用のリスクをいかにコントロールすれば良いのか、リスクを最小限に抑える方法を考えてみたい。
リスクの「質の違い」を理解しよう
資産運用には様々なリスクが伴うわけだが、実際にどんなリスクがあるのだろうか。まずは簡単に紹介しておくと、次のようなリスクが存在する。
①価格変動リスク
②為替変動リスク
③金利変動リスク
④流動性リスク
⑤信用リスク
⑥カントリーリスク
この中で最も投資家が恐れるリスクが価格変動リスクだ。株価や投資信託の基準価格の値動き等によって、運用成績が大きく変わってくるリスクだ。一口に価格変動リスクといっても、商品によっては景気動向や物価、雇用統計などによって大きく動く。また、株式市場の個別銘柄に投資すれば、その企業の業績や将来の方向性などによって大きく変動していく。
為替レートの動きも、様々な金融商品が連動していく大きな影響力を持っている。海外の金融市場に投資する株式や債券の場合、円ベースで考えれば円安で利益が出るし、円高になると損失を出すことになる。為替変動はその変動幅によって、金融市場だけではなく景気全体にも大きな影響が出る。物価高や景気減速なども為替が左右するケースがある。
さらに金利が動くことによって、債券価格が上下する金利変動リスクも、株式や為替ほどではないが、預貯金金利や銀行の経営状況に影響を及ぼす。流動性リスクは、金融商品が売買したいときにいつでも売買できなくなってしまうリスクのことだ。金融商品の売買が滞ると価格が急騰することが多い。逆に急落して価格変動リスクの原因ともなる。
信用リスクは、元本や利息が予定通りに支払われなくなるリスクのことで、国債や社債などが「デフォルト(債務不履行)」を起こす事態があてはまる。カントリーリスクとは、海外の金融商品に投資する場合、その国の政権が交代し、政治システムが根底から覆ってしまうようなリスクのことを言う。
これらの様々なリスクが運用にはつきものだが、実は金融商品によってリスクの質が異なってくる。たとえば、株式や投資信託にはある程度の価格変動リスクがあり、債券や預貯金は価格変動リスクは少ないものの、金利変動リスクや信用リスクが存在している。また、言うまでもないがリスクの度合いが低い「ローリスク」な商品は「リターン」も少ない。高いリターンを望むのであれば、ある程度のリスクをとる必要があるということだ。
「判断を自分でしない」という選択肢も
さて、そんな投資商品のリスクだが、投資にはリスクがゼロという商品はない。タンス預金でさえも、インフレというリスクがある。インフレに勝つためには、物価上昇率を超えるリターンを得なければならない。とは言え、リスクを最小限に抑えることは可能だ。そのポイントは、大きく分けて次の2つと考えていい。
①リスクを分散させる
②売買の判断を自分でしない
運用の大原則とも言えるのが、①の「リスク分散」だ。金融商品を特定のものに集中投資するのではなく、様々な投資対象に分散することが基本と言える。株式投資も日本株だけではなく外国株にも分散投資することが大切だ。また、個別銘柄だけでなく日経平均株価や米国の株式市場の値動きをあらわすS&P500といった株価指数に連動する「ETF(上場投資信託)」などにも投資しておくことが大切になる。
また、株式だけではなく、債券や金、不動産投資信託(REIT)といった金融商品にも分散投資することが望ましい。最近では、仮想通貨といった選択肢もある。投資商品を分散することでリスクを分散できると考えていい。すべての金融商品が同時に同じ方向に動く確率は低い。株式が暴落するときは金価格が上昇したり、仮想通貨が違った動きになる場合も多い。もっとも、今回の株価暴落では、金や仮想通貨も瞬間的に売られる場面があった。ある程度の覚悟は必要だろう。
金融商品だけではなく「時間の分散」もリスク分散の重要なポイントと言っていい。1年より3年、3年より5年、5年より10年という具合に長期投資を心掛けるほど、リスクは減少し、失敗はより少なくなる。積立投資が良いと言われる根拠だ。
②の「売買の判断をしない」というのも、重要なポイントと言っていい。個人投資家は、どんなにマーケットのことを学んで、訓練を積み重ねたとしても、自分自身で「エントリー(買い)」や「エグジット(売り)」のタイミングを正確に計ることは、不可能に近い。とりわけ、利益確定や損切りの形でのエグジットは非常に難しい。株式投資では「購入するタイミングは簡単だが、売るときは間違いやすい」とよく言われる。利益確定をどこでするのか、あるいは損切りをどこでするのか、それが正しくできれば、ほとんどの投資家は儲かっているはずだ。
そういった判断をできるだけ第三者に委ねることが資産運用で失敗しないコツのひとつなのかもしれない。たとえば、積立投資のように、定期的に一定額ずつ投資していく方法は誰にでもできるのだが、その利益確定の段階となると個人によって大きな差が出てくる。
投資に向かない人は、たとえば今回のような大暴落に遭遇したときに、慌てふためいてせっかく始めた積立投資をやめてしまう、あるいはちょっとまとまった利益が出ると、すぐに利益確定してしまう。本来なら、もっと運用益を上げることができたはずのリターンをみすみす見逃してしまう。そういう意味でも、個人投資家はできるだけ、資産運用のプロ、あるいは最近になって可能になってきたAI(人工知能)売買にタイミングを測ってもらうのが良いのかもしれない。
預かり資産1兆3000億円を突破した「ウェルスナビ」
富裕層が、資産運用のプロである「プライベートバンク」や「ヘッジファンド」と呼ばれる銀行や運用機関を活用していることはよく知られている。通常の証券会社や銀行による一任勘定と呼ばれる投資手法を使った「ラップ口座」もポピュラーだ。資産運用の知識に長けた専門家に任せてしまう方法だ。
もっとも、プライベートバンク、ヘッジファンドやラップ口座は、最低預入金額が最低でも1000万円、多ければ1億円という具合に、高額な運用資金が必要だった。いわば富裕層の特権だったわけだ。それが、法改正などによって大幅に規制緩和され、現在では最低1000円や1万円程度で、AIや運用プログラムが自動的に運用してくれる「自動運用型」サービスが多数提供されている。
なかでもAIが自動的に運用してくれる商品(ロボアド)は急速に預かり資産を増やしており、それなりの運用成績を残している。人間のファンドマネージャーによる運用ではない分、運用コストも安く抑えられる。一般的な投資家であっても、最高レベルの運用テクニックを使って、自分の資産を運用してもらえる時代になったということだ。
たとえば、自動運用型の先駆けとなった「WealthNavi」(運営会社はウェルスナビ)は、2016年7月に運用を開始して以来、預かり資産額は、2024年7月現在で1兆3000億円を突破しており、運用者数も40万人(24年6月末)となっている。2024年から導入された新型NISAを使って運用できる「おまかせNISA」も提供しており、ロボアドバイザーの自動運用型サービスの提供機関としては、最も大きな存在となっている。
ちなみに「WealthNavi」以外にも、「らくらく投資、楽ラップ」(楽天証券)、「ROBOPRO」(FOLIO)、「SMBCロボアドバイザー」(三井住友銀行)、「SBIラップ(SBI証券)、「THEO+docomo」(NTTドコモ)など、数多くのサービスが市場参入している。以下に代表的なものについて、具体的なサービス内容を紹介する。
●ウェルスナビ……最低投資金額1万円、最低積立額月1万円、手数料年率1.1%、3000万円を超える部分は0.55%(現金部分を除く)、信託報酬=ETF内で保有コスト年率0.07~0.13%、リスク許容度5段階、投資対象は株、債券、金、不動産のETF、NISAも対象
●SBIラップ……最低投資金額1万円、最低積立金額月1000円、手数料年率0.660%(AI投資コース)、信託報酬0.1606%、運用コースの選択は不要、AIが自動的にリスク調整、投資対象はファンドによる株、債券、不動産、金、NISAは対象外
●楽ラップ……最低投資金額1万円、最低積立額月1万円、手数料年率固定報酬型最大0.715%、信託報酬=0.2702%程度、リスク許容度9段階、投資対象は国内外の株、債券、REIT、NISAは対象外
自動運用型とはまた別に、助言だけをする「アドバイス型」と言うのもある。「マネックスアドバイザー」(マネックス証券)、「投信工房」(松井証券)などが有名だが、それぞれの運用会社によって、条件やサービス内容が異なる。アドバイスだけの場合は、運用コストは保有する投資信託などの信託報酬のみになる場合もあり、コストが低く済むメリットがある。
これらの自動運用型の多くは、毎月の積立タイプを推奨しており、時間を分散して自動的に運用してくれる仕組みにもなっている。
具体的には、目標額を決めたうえで、最初に自分の「リスク許容度」を決める必要がある。勝手にAIが決めてくれるものもあるが、できれば自分でリスク許容度を選択して、運用を始めたほうが失敗しても納得がいくかもしれない。
たとえば、月額1万円程度の投資額でスタートして、その運用成績に応じて投資額を随時増やしていくのもひとつの方法だ。また、今回のような暴落があった時には、追加でまとまった資金を投資してもいい。自分で判断せずに放置できるとは言え、運用状況を随時把握することは重要と言える。
リスク許容度によっては、瞬間的に大きなマイナスになる場合も当然ある。たとえば、5段階のリスク許容度のうち中位の3段階を選んでいたとしても、今回の暴落のようなことがあれば、数百万円の資産があれば、数十万円のマイナスが出てもおかしくはない。そこで慌てないことが重要で、リスク許容度をきちんと理解して、あとは自分で判断しないで、最初に決めた目標額を目指すのがいいかもしれない。
(参考URL)
・投資におけるリスク
https://www.bk.mufg.jp/column/shisan_unyo/0030.html
https://www.mizuho-sc.com/beginner/story2/riskreturn/operation.html
https://www.fsa.go.jp/manual/manualj/hoken/10.pdf
・ロボットアドバイザー
https://kakaku.com/robot-advisor/
https://www.smbc.co.jp/kojin/special/roboadviser/lp.html
https://www.bk.mufg.jp/tameru/roboadvisor/index.html
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