『危機の二十年 1919―1939』E. H. カー著/井上茂訳岩波文庫 1996年刊(1952年、岩波現代叢書より刊行。現在は古書としてのみ入手可能)「力は、それが行使されようと、脅しに用いられようと、静かに保持されていようと、国際的変革における核心の要因である。そして変革は一般的に言って、力を発動し得る者、あるいは発動名義人の利益としてのみ成就されるであろう。『力の脅しに屈する』ことは、平和的変革の過程にみられる通常の一階梯である」。「力は、あらゆる政治的秩序に不可欠な要素である。……国際秩序という考えは(英国という)優越した一強国によって創られた」。が、この強国は武力的にも、通貨・貿易面でも凋落した。「しからば、国際秩序はいかなる力によって再建されることになるのか」(引用訳文は本稿筆者による)。 一九三九年九月に四十七歳で『危機の二十年』を世に問うたE. H. カーは、そう論じた。世界はナチス・ドイツという新しい強国による力の脅し(対チェコスロヴァキア)と、力の行使(対ポーランド)とを目撃したばかりだった。第一次大戦終結の一九一九年から始まった危機の二十年に終止符が打たれ、大戦の季節の再来である。ところが、多少乱暴に要約すると、カーはこの横車が国際秩序に必要な――「平和的」ではないが――「変革」をもたらすと考えた。だから「きたるべき平和の構築者のために」との扉辞が付された。

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