芸術の都で考えた「パートナー」の自由と平等

執筆者:大野ゆり子2009年8月号

 パリのオペラ座(バスティーユ)で、夫のオペラ公演があったので、二カ月ほどパリに滞在した。指揮者用の楽譜は、数キロの重さになる。持ち歩くのは大変なので、徒歩で往復できる距離でアパートを探し、マレ地区という場所を選んだ。 このマレ地区は、パリでもユニークな場所。くねくねと曲がる狭い通りには古くからユダヤ人街があり、厳しいユダヤ教の戒律を守って処理された肉を売る店やユダヤ教寺院が並んでいる。また、ピカソ美術館があったり、日曜日も開店しているブティックが並ぶなど、人気の観光スポットのひとつだ。 アパートで荷解きをした夜に、マレ地区の真ん中にあるレストランで食事をしていると、しばらくしてふと、あることに気づいた。混み合った店内は、店員、客とも洗練されたセンスで最新流行のモードを着こなし、肉体を鍛え上げたカッコいい男性ばかり。男女のカップルは、私たち夫婦だけである。 実は、この辺りは男性同士、女性同士の同性愛カップルが人目をはばかることなく、堂々と歩けることで有名なのだそうで、一九九〇年代にホモセクシャルのオーナーがお洒落なレストランやバー、ブティックを次々と開き、今では同性愛者の憩いの場となっているそうだ。

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